2019年2月15日 衆院予算委員会の質問要旨
2019年2月21日 国会論戦
安倍政権は、昨年、わずかな審議時間で入管法改定を強行し、今年4月から、外国人労働者の受入れを拡大しようとしています。受入先の多くが技能実習生からの移行を見込んでいます。技能実習制度の実態をどう捉えるのかは新制度に直結する問題です。
15日の衆院予算委員会で、日本を代表する大企業で、実習生が実習計画と違う作業、異なる作業を強いられる事態が相次いでいることを指摘し、とりわけ、経団連会長企業である日立製作所が99人の実習生を解雇した問題について追及しました。
日立製作所の笠戸事業所は、日立の新幹線製造の最大の拠点であり、日本の鉄道テクノロジーの最先端、世界でも最先端の工場の一つです。
実習生の本来の目的は電気機器組立てです。しかし、日立は電気機器組立て以外の単純作業を実習生にやらせていました。
政府は、技能実習法に違反する疑いで、昨年以来、3回検査に入っています。
日立は、検査中である、そして来年度の計画の認定が得られないなどを理由として、99人を4次にわたって解雇しました。しかも、73人が帰国を強いられてしまいました。日本人の労働者が、契約にない労働をやらされ、何の説明もなく突然100名近くが解雇されたら大問題になります。同じ労働者でありながら、外国人だからという理由で保護に差があるとすれば、到底許されません。
先日、十数人のフィリピンからの技能実習生の皆さん、そして労働組合スクラムユニオン・ひろしまの皆さんからお話を伺いました。
実習生の皆さんは全員20代で、「日立の電気技術に憧れて来た」という若者ばかりでした。
しかし、実際には、窓の取り付けやワイヤを引っ張るなどの電気技能に関係のない、実習計画と異なる単純作業ばかりでした。彼らは第14期生だそうです。つまり、日立は2005年からずっと、実習生を安価な労働力としてずっと使い続けてきたということなのです。
日本を代表する企業が長年にわたって本音(安価な労働力)と建前(技能実習)をずっと使い分けてきました。これは技能実習制度そのものを揺るがす大問題です。
さらに、日立は、技能実習生99人に対して、まともな説明もせずに解雇しました。なぜ自分が解雇されるのかわからないまま帰国された若者もいるそうです。
技能実習法には下記の規定があります(配布資料1参照)。
「第五十一条 実習実施者及び監理団体は、第十九条第一項若しくは第三十三条第一項の規定による届出、第十九条第二項の規定による通知又は第三十四条第一項の規定による事業の廃止若しくは休止の届出をしようとするときは、当該実習実施者及び当該監理団体に係る技能実習生であって引き続き技能実習を行うことを希望するものが技能実習を行うことができるよう、他の実習実施者又は監理団体その他関係者との連絡調整その他の必要な措置を講じなければならない。
2 主務大臣は、前項に規定する措置の円滑な実施のためその他必要があると認めるときは、実習実施者、監理団体その他関係者に対する必要な指導及び助言を行うことができる」
そして、その運用要領には、
「技能実習生を受け入れている実習実施者や監理団体の事情により、技能実習を行わせることや監理事業を続けることが困難となった場合等において、技能実習生が他の実習実施者や監理団体に円滑に移籍することができなければ予定していた期間の技能実習を行うことができず、技能実習生が途中帰国を余儀なくされることとなります。
このような事態を防止するため、実習実施者や監理団体が、技能実習実施困難時届、事業の休廃止届出等をしようとするときは、責任を持って実習実施者や監理団体が他の実習実施者や監理団体等との連絡調整その他の必要な措置を講じ、技能実習生の円滑な転籍の支援を図ることが義務づけられています」
また、留意事項として、
「このような技能実習期間の途中での中止は、倒産等のやむを得ない事情がある場合を除いては、実習実施者や監理団体の一方的な都合によるものであってはなりません」
と書かれています。
まさに、今回の解雇は、計画外の作業を日立の一方的な都合でやらせたことによって起きたことです。そのうえ、日立は義務を果たさず、政府も是正する権限がありながらもしなかったのです。政府の責任は極めて重大だと思います。
今、日立グループ全体で約1,400名の実習生が働いています。この若者たちが心配しているのは、日立で実習を続けられなくなるのではないかということです。三菱自動車と同様に、日立に処分が下った場合、今後五年間、技能実習生の受入れが禁止されます。
そうすると、自分には全く落ち度がないにもかかわらず、実習を続けられなくなるおそれがある方が出てきます。
実習先と受入機関の問題と同時に、日本国内の監理団体、さらには、母国であるフィリピンにある送出機関や、その委託を受けた研修機関の問題も浮き彫りにしました。
日立のケースでいえば、日本国内の監理団体は協同組合フレンドニッポン、フィリピンの送り出し機関はホワイト・ダブ・リクルートメント・コーポレーション、研修機関は、PNTC(フィル・ニッポン・テクニカル・カレッジ)です。
まず、ホワイト・ダブは、フィリピン政府からも認定を受けている、ある意味優良とされる送出機関です。
実習生とこのホワイト・ダブが結んだ契約書 (配布資料2参照) には、実習期間中の実習生の義務と責任という条項があります。意訳すると、3条の1には、「本契約の条項を忠実に遵守することに同意する、その同意事項に違反したら、みずからの費用負担でフィリピンに送り返され、損害賠償などの責任を負う」と書かれています。この同意の例として、3条の3に、「実習生は、給料や手当について、同じ会社の他の実習生又は他の会社の実習生などと比べて文句を言ってはならない」と。つまり、文句を言うな、何かあれば自腹で帰国だぞと、いうおどしのような条項です。
これを指摘すると、政府参考人は「技能実習法施行規則第十二条第一項第六号におきましては、帰国事由を問わず、帰国旅費の全額を監理団体が負担することとなっています。ですので、それを本人に、自己負担とする内容の契約につきましては、基準に合わないものとして、事案の内容に応じて取消しの対象になると思います」と答弁しました。
しかし、実際、実習計画を認可しているのですから、政府の責任は極めて重大です。もし日本人の契約書にこんな条項があったら、到底通用しません。
このホワイト・ダブから委託を受けて研修を行っているPNTCも問題です。
配付資料3は、いわゆる研修機関の廊下や玄関などの目立つところに張り出された、日本に行った実習生の写真です。優秀だから張り出されているのではなく、日本で苦情があった問題のある実習生という趣旨で張り出されているのです。
しかし、実際は「実習と計画と違うじゃないか」とか、「賃金、契約と違うじゃないか」とか、当たり前の主張をしたために問題児とされたのです。こんな主張をしたらこうなるぞという、まさに見せしめです。
実習生は契約で縛り、これから実習生になろうという後輩たちは契約に違反したらこうなるぞとおどしているのです。
2015年11月19日、安倍昭恵総理夫人が安倍総理に同行されてフィリピンに行った際、フレンドニッポンの関係者と実習生らと懇談し、「是非日本の良い点を学んでいただきたいです。皆さんが日本で働かれている姿を見ることができればと思います」と述べています。 (配付資料4参照)。笠戸事業所のあの若者たちが聞いたらどう思うのでしょうか。
このフレンドニッポンというのは、全国で約2,000以上ある監理団体の中でも最大手の一つで、大企業を含む200社近くに累計1万人の実習生を受け入れています。
もともとこのフレンドニッポンは日立との関係が深く、その取引実績をもとに他の大企業にも売り込んでいたそうです。報道では、日本人の派遣労働より安いですよ、しかも3年間働く即戦力ですよ、こういう売り込みをやっていたといいます。
実際にお話を聞いた若者も、「日本人と同じ作業をしていたのに私たちの給料の方が安かった」と。彼の契約書を見せてもらいましたが、山口県の電機産業の最低賃金とほぼ同じでした。
安価な労働力としての売り込みというのは、労働力の需給の調整手段として技能実習が行われてはならないとする、技能実習法の基本理念(第3条)に根本から反します。
上記のホワイト・ダブの日本側の連絡先とフレンドニッポンの住所、電話番号は全く同じです(配布資料5参照)。ホワイト・ダブの担当者のEメールアドレスを見ると、アットマークの後が、ホワイト・ダブじゃなくて@friendnippon.comとなっています。両者は事実上一体だと語るに落ちているわけです。
実習生から見ますと、フィリピンでは送出機関から食い物にされ、日本に来たら、事実上一体の監理団体フレンドニッポンから食い物にされる。もう寄ってたかってやっているわけです。
政府は、こうした実習制度を土台として、新しい受入れ制度を拡大しようとしています。しかし、まずは全く明かされていない実態を把握すべきではないでしょうか。
昨年の6月に、法務省と厚労省、そして外国人技能実習機構の連名で出された監理団体宛ての注意喚起の通達がだされました(配布資料6参照)。
「昨今、本来の技能実習法上の職種、作業とは具体的な内容の作業の実施や、計画上の作業の時間数とは異なる形での技能実習の実施といった技能実習計画の内容とは異なる内容の技能実習(計画齟齬)を実施されている事案が散見される」とあります。
「散見される」という表現がされていますが、氷山の一角だという認識で取り組むべき問題だと思います。
適正な運営を頑張っていらっしゃる監理団体もあります。しかし、前述のように管理団体の最大手であるフレンドニッポン自身が実習生を食い物にしているわけですから、監理団体宛てでは不十分であり、限界があります。政府のイニシアチブで実態を解明すべきだと思います。
今、法務省は特別調査チームをつくり、この間、問題になってきた技能実習生の失踪事案、そして死亡事案について調査を行うと言われています。
この失踪や死亡とあわせて、計画齟齬事案についても調査を行うべきではないでしょうか。
この1年だけでも実習生の数は何と5万人以上ふえており、累計30万人を超えています。
日本を代表する大企業、あるいは最大手の監理団体などが、長年にわたって、外国人技能実習生を雇用の調整弁あるいは安価な労働力として使い捨てにしています。この現状を放置したまま、もう1カ月半後に迫った4月からの受入れを強行すれば、人権侵害はますますふえます。絶対に許せません。
4月からの受入れ拡大を中止して、実習制度の実態把握、そして人権侵害の救済、さらには、日本人労働者を含む、働く人を守るルールをつくるため、頑張ります。
作成者 : fujinoyasufumi