衆院法務委 少年法質疑3回目
衆院法務委。少年法質疑3回目。
「特定少年」に対する介入の正当化根拠が、現行法の保護原理(健全育成のため)から侵害原理(法益侵害への応報のため)に変わります。
同じ少年法の中に保護原理と侵害原理が併存する。
この侵害原理の導入こそ問題なのです。
今後侵害原理が優先されていけば、少年院はミニ刑務所に変質。
少年の立ち直りの機能が損なわれます。
- 会議録 -
○義家委員長 次に、藤野保史君。
○藤野委員 日本共産党の藤野保史です。
早速ですが、配付資料一を御覧いただければと思います。
これは、四月六日の参考人質疑で、法制審の委員も務められた川出参考人がおっしゃったところであります。 黄色い部分なんですが、民法の成年年齢が十八歳に引き下げられたこととの関係をどのように考えるかが結論の分かれ目となるポイントで、部会においても、その点が引下げ賛成論と反対論の最大の対決点でしたとあります。 左の方に、民法上成年となり親の監護権に服さなくなった十八歳、十九歳の者を、少年法上は少年として扱い、保護処分の対象とすることができるのかということが、少年法における介入原理が保護原理であることとの関係で問題になってくる、そう説明をいただきました。
法務省にお聞きします。
法案の特定少年に対する介入原理、これも保護原理であるという理解でよろしいですか。
○川原政府参考人 お尋ねは、特定少年に対する関係で保護原理がという話でありますが、講学上の原理として今回の保護少年に対する取扱いをどう説明するかに関するものでございまして、よって立つ立場に様々な捉え方があり得ることから、一概にお答えすることは困難でございます。
○藤野委員 いや、実は、川出参考人は、この保護原理という言葉を、この配付資料一の僅か二ページの議事録で十回も使っているんですね。まさにキーワードなんですよ。
局長にお聞きしますが、四月七日の答弁で、松平委員の質問に対して、保護原理という言葉と要保護性、先ほどから出ていますけれども、保護原理という言葉と要保護性は少し意味合いが異なりますと答弁されています。この要保護性と保護原理というのはどういう関係にあるんですか。関係をお答えください。
○川原政府参考人 お答えを申し上げます。
いわゆる保護原理と申しますのは、少年法における少年の取扱いの正当化根拠を説明する際に用いられる講学上の原理でございまして、これにつきましては様々な見解があり得るところでございますが、例えば、少年の保護原理とは、未成熟な少年の健全な成長という少年本人の利益を図るために国が後見的な介入をすることを認めるものなどと説明されているものと承知しております。
他方、要保護性につきましては、これは実務で一般的に用いられているものでございまして、一般に、少年による再犯の危険性と保護処分によるその防止の可能性を合わせたものと解されておりまして、現行少年法による保護処分は、一般に少年の要保護性において課されているものと承知しております。
すなわち、現行法上の保護処分については、一般に少年の要保護性に応じて課すものであり、要保護性の程度が高い場合には、当該少年に対して、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超える重い処分を課すことを制約する規定はなく、制度上可能であると解されておりまして、御指摘の私の答弁は、こういった要保護性の考え方を念頭に置いて申し上げたものでございます。
○藤野委員 ざっくり言いますと、要保護性というのは、当該少年への介入の必要性とかいうものを、再犯の可能性とかを考えながら総合的に判断した、必要性に関わる概念だと思います。
他方、保護原理というのは、先ほど局長も正当化根拠と言いましたけれども、介入が必要だとしても、それはやはり人権を制約するんですね、少年の。少年の人権を制約するその介入がどうして正当化されるのかという、その正当化根拠がいわゆる保護原理、それについてはおっしゃったように諸説あるわけであります。
ですから、要保護性というのは、ある意味、必要性に関わる概念で、保護原理というのは、ある意味、許容性に関わる概念だと思うんです。人権制約を許容する原理ですね。
問題は、その川出参考人がこうおっしゃっていることなんです。その裏の方を見ていただきますと、こうおっしゃっているんですね。
特定少年に対する保護処分は行為責任の範囲内で行わなければならないということでして、これは、犯罪を行った十八歳、十九歳の者に対して、一般的に保護原理に基づく介入を行うことはできないとする考え方によるものとおっしゃっているんですね。
そして、続けてですけれども、こうした改正法案の考え方によりますと、十八歳、十九歳の特定少年に対する保護処分というのは、同じ保護処分という言葉が使われていても、十八歳未満の者に対する保護処分とはその正当化根拠を異にする。ここが重大だと思うんですけれども、その最後のところなんですが、少年法が適用されることと保護原理が適用されることを切り離すということを認めるのであれば、このような立法も一つのあり得るものであろう、こうおっしゃっているんですね。
局長、お聞きしますけれども、もちろん、この法制審の後に与党PTがあったということも認識はしております。ただ、与党がお呼びになった参考人がこのような改正案の説明をされたわけであります。
そこでお聞きせざるを得ないんですが、本法案も、こうした説明、こうした考え方に基づいて立法されているんでしょうか。
○川原政府参考人 お答えを申し上げます。
川出参考人から御指摘のような意見が陳述されたことは承知しております。
もっとも、お尋ねは、本法律案における十八歳以上の少年に対する取扱いを講学上の原理としてどのように説明するかに関するものでございまして、よって立つ立場に様々な捉え方があり得ることから、一概にお答えすることは困難でございます。
いずれにいたしましても、十八歳以上の少年に対して、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超えた処分を行うことにつきましては、民法上、成年とされ、監護権の対象から外れる十八歳及び十九歳の者に対して……(藤野委員「それは結構です」と呼ぶ)
○藤野委員 ですから、これは原理が違うんですね。行為責任という言葉を川出参考人は使っていらっしゃいます。
先ほどの答弁で、責任主義という言葉も出てきました。保護原理とは違うんですね。あくまで犯した罪に対する、いわゆる法益を侵害したことに対する非難や応報、これが責任主義とか行為責任ということになってくるんですが、ですから、原理が違う。
つまり、特定少年については、まさに正当化の介入根拠、介入根拠が違うんですね。保護原理ではなくて、それはあくまで犯した罪の責任の範囲という、その責任の原則が、原理が、表に出てくるわけです。
ですから、先ほど来、虞犯とか推知報道とかいろいろ出てくるんですけれども、私は利益衡量の問題じゃないと思う。十八歳、十九歳はそういう介入原理が違うんだから、そもそも虞犯なんというものは概念できないというふうに流れていくわけですね、論理的に。
ですから、そういう意味での原理的な変更、これが私は問題だと思いますし、特定少年について、それまでと違う、十七歳以下の少年と違う、十七歳以下は改正法案でも保護原理なんです。ただ、十八歳、十九歳だけ、第五章という、まさに取ってつけて、別の原理を使っている。
私は、介入原理を変えたことこそが危険だと思うんですね。原理的な変更ですから、それがどう作用していくか。少年法全体に作用していって変質させていくんじゃないか。保護原理の分野と行為責任の原理、いわゆる刑罰原理というのが同じ法体系の中で併存してしまうわけですね。これは非常に私は危険なことだというふうに思います。
具体例で見ていきたいと思うんですが、四月七日の大口委員の御質問で、こういう問いなんですね。少年院の話です。
少年院に収容可能な期間の上限を犯情の軽重を考慮して定めるという点について、犯情の軽重以外の要素、例えば、保護処分決定時で、要保護性の程度とか今後の見込みを考慮して、より短い期間を定めることができるのかという問いをされました。これはいい質問だというふうに思うんですね。
法務省にお聞きしたいんですが、これは端的にお答えいただきたいんです。そのときの答弁は物すごい長いので。できるかできないかを中心に、より短い期間を定めることができるのかという問い。もう一つ、私は加えて、より長い期間を定めることができるのか。これをお答えください。
○川原政府参考人 お答え申し上げます。
ちょっと御質問の御趣旨を確認させていただきますと、犯情の軽重以外の要素、例えば要保護性の程度などを考慮して、より短い、あるいはより長い期間を定めることができるのかという御質問だと思います。
少年法六十四条二項及び三項の規定でございますが、これは家庭裁判所が少年院に収容することのできる期間の上限を定めるに当たっては、主として犯情の軽重を考慮し、要保護性の程度や今後の見込み等の処遇に関わる事情は処遇期間における処遇に委ねることとして、基本的に考慮しないという趣旨の規定でございます。
したがいまして、家庭裁判所が少年院の収容期間の上限を定めるに当たり、要保護性の程度や今後の見込み等の処遇の必要性に関わる事情を考慮し、あらかじめ収容期間を限定することは想定しておりません。
他方で、本法律案においては、十八歳以上の少年に対する保護処分につきましては、犯罪の軽重を考慮し、相当な限度を超えない範囲内、すなわち犯した罪の責任に照らして許容される限度を超えない範囲内でしなければならないとされており、要保護性を考慮して、その限度を超える収容期間を定めることもできないというところでございます。
○藤野委員 今のは端的にお答えいただいたと思います。
要するに、より短い期間を考慮することも、より長い期間を考慮することもできないんですね。要保護性なんかはもう考慮しないというんです。あくまで、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超えない範囲内と。これがまさにキーワードになります。犯した罪の責任に照らして許容される限度を超えない範囲内、これが先ほど言った責任原理、侵害原理とか、そういうものに対応するものなんですね。
保護原理という、今の十七歳にも適用されるそういう今の保護原理だったら、こういう範囲には限られないんです。それはやはり家裁が、この少年にはより短くとかより長くとか、そうやって、その要保護性というか、いろいろなものに見合って総合的に決めていくんですけれども、本法案は、十八歳、十九歳に対しては、例えばこの少年院の収容期間については、極めて、もう決まっちゃっている、犯した罪の範囲内と、これがばあんと出てくるんです。ですから、ここの特定少年については保護原理よりも侵害原理が優先されているんですね。
そして、もう一つお聞きしたいのが、未決勾留期間を算入できる六十四条四項。これも、四月七日の川原局長の答弁はこうあるんですね。
もう時間の関係で、私の方で読ませていただきますが、現行法の趣旨として算入されないんです、今は。
その理由として、局長は、その趣旨を申し上げますと、まず保護処分は、少年の健全育成を目的として保護、教育的な処遇を行うもので、本人の利益となる側面を有しており、捜査や裁判の適正な執行のために身柄を確保する未決勾留等とは性質が異なることから、現行少年法においては、その日数を保護処分の日数に算入できることとはされていないところでございます、こう答弁されました。
ところが、改正案は、これを算入するんですね。性質が違うんだけれども算入する。
この理由について、局長が衡平の観点ということをおっしゃって、特定少年に対する少年院送致の決定に至るまでの手続に特に長い期間を要した場合は、衡平の観点から妥当じゃないから算入するんだ、こういう御説明ですね。
しかし、決定に至るまでに長い期間を要するというのは、それだけやはり複雑な事案だ、あるいは五十五条に当たるような事案かもしれません。
いずれにしろ、何で長くなるかというと、やはりそれは、少年の置かれた環境や犯した犯情というのが難しいからだと思うんですね、判断が。ということは、仮に少年院送致になった場合は、長い処遇期間が必要になる可能性だってあるわけです。ところが、未決勾留期間を算入してしまいますと、これは元々キャップが決まっているのが、更に短くなるんですね。
局長、お聞きしますけれども、これは要保護性の後退、ひいては立ち直りにも障害になるんじゃないですか。
○川原政府参考人 お答え申し上げます。
委員が御指摘の点でございますが、本法律案におきましては、家庭裁判所が少年院への収容期間の上限を定めるに当たって、未決勾留等の日数を少年院への収容期間に算入できることとする趣旨、これは御紹介いただいたとおりでございます。
もっとも、こういった規定の趣旨からいたしますと、実際に未決勾留等の日数を算入することとなるのは、例えば、家庭裁判所による逆送決定、検察官による公訴提起を経て刑事裁判になったものの家庭裁判所に移送された事件で、一連の手続の間、観護措置及び勾留による収容が長期にわたって継続したような場合などに限られているものと考えております。
したがって、未決勾留日数の算入の仕組みを設けることによって、保護処分における処遇期間の確保ができなくなるような事態は生じるとは考えていないところでございます。
○藤野委員 いや、それが、この法案ですと、例えば三年以内とか、六十四条の三項で、保護処分でも、三号の場合の保護処分をするときは、その決定と同時に、三年以下の範囲内において少年院に送致する期間を定めなければならないとか、いろいろ制約がもう決まっているわけですね。
現行の少年法には期間の定めはないんです。現行は、送るとか、保護観察に処すとか決めて、その期間をどうするかはまさにそれぞれ決まっていくわけですけれども、法文上、明文でキャップがついているわけです、今回。それが、更に未決勾留で算入されたら短くなるんじゃないかというのが私の質問なんです。
結局、こういう発想というのは、刑事責任の範囲内でやろう、範囲内でやろうと。未決勾留も刑事的手続だから、それも算入するのは当然だ、そういう発想なんです。ですから、要保護性とか、本当に、長期間かかったということは大変なんだから、ちゃんと時間もかけてじっくり立ち直らせよう、そういう発想ではなくて、ここでも、ある意味、刑事責任が優先されて、保護の考え方というのは後退するわけなんです。
ですから、そういう意味で、今回、本当に原理的な変更というのが持ち込まれている、そういう点が一番私は問題だというふうに思うんですね。
その上で、幾つか具体的な問題についてもお聞きをしていきたいと思います。
まず、虞犯なんですが、虞犯については、ちょっとその前に、厚労省が四月九日の私の質問の中で事実と異なる答弁をしたので、ちょっと訂正を求めたいと思います。
○大坪政府参考人 御答弁申し上げます。
四月九日の本委員会におきまして、藤野先生の方から、児童福祉法の対象となる児童の範囲のお尋ねをいただいております。
その際、事実と異なる答弁が一部ございましたので、この場で訂正をさせていただきたく、また、質疑者の藤野委員及び委員会の先生方におわびを申し上げたいと思っております。
改めて申し上げますと、児童福祉法の児童の規定でございます。
同法第四条第一項におきまして満十八歳に満たない者と定義しているところでございまして、その上で、児童福祉法全ての規定が満十八歳に満たない者のみを対象としているわけではないこと、例えば、長くなるのであれですが、児童養護施設や児童自立支援施設におきましては、満十八歳未満を対象とすることを原則としつつも、生活の安定の観点から、満二十歳未満まで、入所等を延長して施設に在所させることを可能としております。 自立援助ホームにつきましても、社会的養護の措置解除後の者などでありまして、満二十二歳未満の者まで支援の対象としているというところでございます。
失礼いたしました。
○藤野委員 ですから、私、あのときの質問は、要するに、児童福祉法の対象にならない、十八歳、十九歳、特定少年が。それが、今の答弁でも、やはり児童福祉法というのは満十八歳に満たない者を対象とするわけで、結局やはり対象にならないんですね。
例外的に、十八歳になる前の段階でそういう施設に入所していたら、先ほど延長とありましたけれども、それは延長の場合はあります。それはあくまで延長で、初めから十八、十九を超えていたら、そもそも入所できないわけですね。
ですから、やはり最後のセーフティーネットというのは、今、法律上は少年法しかないんです、虞犯しか。 大臣は、虞犯との関係で、先ほど寺田委員との質問のやり取りでも、今回少年法は外れるけれども、ほかのフレームワークで強く取り組んでいくと、かなり力を込めておっしゃいました。先ほど階委員とのやり取りでも出てきましたし、その際には、法務少年支援センター、あるいは更生保護サポートセンターということも御紹介いただきました。
私も、ちょっとこれはホームページ上ですけれども見させていただいたり、あと、詳しい方にお話もお聞きしたんですね。 確かにすばらしい取組はされていると思います。それぞれ各県にあったり、更生保護サポートセンターについてはもう八百を超える、九百近いセンターがあって、保護司の方が常駐もされている。そういう取組は本当にすばらしいものだというふうに思います。
ただ、ちょっと詳しい方にお聞きすると、やはりどうしても、受動的な対応と言うと変ですけれども、やはり建物があって、鑑別所に併設されていたりしますので、窓口があってということの中で、もちろん、研修をやったり出張教室をやったりはしているんですけれども、教室に行ってもやはりなかなか分からないんですよね、出前授業とかをやっても。
ですから、今の制度は、それはそれで本当に大事だと思うんですが、例えば、私、先日の質疑で、歌舞伎町とかそういうところに出ていって、アウトリーチでその支援を行っているColaboの活動も紹介させていただきましたけれども、Colaboの仁藤代表などにお聞きしますと、コロナの前からそういうJKビジネスとか性産業で搾取される女性というのはたくさんいたんだけれども、このコロナ禍でその数が激増していると言うんですね。だから、これはもう虞犯の典型です、そういうビジネスに捕まっていくというのは。
私は、やはり虞犯対策とおっしゃって、力を入れるとおっしゃるというのであれば、例えば、一方ではそういう拠点をしっかり持ってセンターをやるというのは大事ですけれども、アウトリーチ的なもので何かお考えのことはないんでしょうか。
○上川国務大臣 今、厚生労働省を中心として、困難を抱える女性たちということで、この間、様々な検討をしてきていただいておりますし、また、調査もしてきているところであります。
まさに、委員おっしゃった歌舞伎町のケースにつきましては、まさにアウトリーチしていくという形で、その女性たちにとりましては、非常に世代が近いとか、あるいは相談しやすいということで、声をかけられること自体に大変意味があり、またそこからレスキューしていくという、そうしたきめ細かな取組については、これは極めて重要な役割を果たしているなというふうに思っております。
公ができることの限界もございますが、それではいけないわけでございますので、先ほど申し上げた更生保護サポートセンターとか、あるいは法務少年支援センター、こういったところは極めて大事な拠点でございますが、それとまた民間の様々なグループや団体のきめ細かな活動について、つながっていく、そして、地域の中で情報共有をしながら、役割をそれぞれ果たしていただきながら、少年と接触していく、こういうことは極めて大事なことだと思っています。
そういう方向の中をしっかりと整備していくということを念頭に置きながら、法務省におきましては、そうした拠点を中心に取り組んでいくということでありますので、全て連携をしながら取り組んでいく総合的な対策が必要だと思っております。
○藤野委員 虞犯規定のいいところは、本人が申請したり、少年鑑別所のそういうセンターに行くとか、そういうことをしなくても、町で、虞犯ではないかという疑いがあったら、例えば働きかけられる。それは、やはり虞犯規定という根拠があるからなんですね。これがなくなってしまいますと、様々なそういう連携そのものにも影響が出てくるというお話も伺いました。ですから、これは本当にセーフティーネットですから、これを外すというのは大問題だというふうに改めて指摘したいと思います。
次に、推知報道なんですが、十二日に東京家裁を視察をさせていただきました。大変貴重なお話をいろいろお聞きしたんですが、一つ紹介したいのは、刑事事件における少年への配慮について、地方裁判所の裁判官からお話を伺ったことなんです。公開法廷なんですけれども、やはり少年だということで、いろいろな配慮をされているという御説明をいただいたんですね。
例えば、氏名の秘匿については、本人には生年月日のみ言わせて、あとは紙で、このとおりかといって確認して、はいと言ったらもうそれで人定は終わりと。あるいは、法廷内の配慮としても、少年に対して呼びかけるときにはAとかあるいは被告人とかいう呼びかけで、実名は言わないとか、着席位置も、検察官と向かい合わせると顔がもうずっと出ていますから、傍聴席には背中を向けて座らせるとか、そういう配慮もしている。
あるいは、証人から本人が分かる可能性も大きいので、証人についても、出頭カードなどを示して、あなたはこういう方ですねと言ったら、そのとおりですと言ったらそれで終わるというふうなやり方とか、あるいは、入口の開廷表、入口に今日の事案とかいって普通は名前が出るそうなんですが、少年の場合はその開廷表にも氏名を書かないという説明もいただきました。心身や情操に対する配慮というのも、平易な言葉を使うとか、少年は疲れやすいので休憩を細かに取るとか、本当にすごいなというふうに思いました。
裁判官の説明は、何でそういうことをするかというと、少年法一条の健全育成の理念が刑事裁判にも及ぶからだと、こういう説明なんですね。そういう意味での、なるほどなというふうに思ったわけです。しかも、改正後も、大臣、改正後もこうした運用は続けるとおっしゃったんですね。
それで、大臣にお聞きしたいんですけれども、この間、大臣はいろいろな場で、公判請求された場合には、公開の法廷で刑事責任を追及される立場となることに鑑み、推知報道を一部解除する、こうおっしゃっているんですね。しかし、実際は、公開の法廷でも、現状でもこれだけの配慮がされているし、今後も続けるというんです。 だとすれば、大臣、公開の法廷だから解除していいんだという、そういう理屈は成り立たないんじゃないですか。
○川原政府参考人 お答え申し上げます。
今般、特定少年につきまして推知報道を一部解除するということにしたものでございます。推知報道の一部解除をなぜするかということにつきましては、るる答弁をさせていただいておりますところでございますので、その上で、お尋ねは、公判請求されたことがなぜ推知報道の禁止の解除と関係するのかというところでございますので、その点に絞って申し上げたいと思います。
どのような場合に推知報道を解除するかという点については、先ほど来申し上げております、罪を犯した者の更生と、憲法で保障される報道の自由との調整をいかに図るべきかという観点から、様々な事情を踏まえた上での政策判断として、本法律案では、十八歳以上の少年が逆送されて公判請求され、公開の法廷で刑事裁判を追及される立場となった場合には、家庭裁判所の審判が少年の保護の観点から非公開で行われることと対比して、刑事裁判が公開の法廷、すなわち傍聴人による傍聴が可能な状態で行われることも踏まえ、推知報道の禁止を解除するのが適当と考えたことでございます。
このような仕組みにつきましては……
○義家委員長 挙手が上がっておりますので、おまとめください。
○川原政府参考人 法制審議会において全会一致で採択された答申にも盛り込まれたものでございます。
○藤野委員 そういう意味のない答弁に来ないでいただきたい。
要は、私が一番感銘を受けたのは、少年法一条の健全育成の理念が刑事裁判にも及ぶから、そうやって配慮しているんだと。大臣は先ほど、一条は特定少年にも及ぶとおっしゃっているわけですね。ですから、この推知報道についてはやはり見直すべきだ。
もっと根本的に言いますと、大体、二十歳以上でも、先ほども出ましたけれども、無罪推定の原則が働いているわけです。だから、公訴を提起された人に対する犯罪報道をどうするかというのが本来立てるべき問いであって、そのことについて何ら見識も示されないまま、今回、特定少年だけ穴を空けるわけですね。これは、私、法務省としてはやってはいけないことだと思います。
政府も、弊害があることは否定していないわけです。では、その弊害を防止する何か対応策を取るかというと、取らないわけですね。近時、ネットの拡散が理由で自殺するという事例も実際に起きている。そういう中で、何の対応策もなく、弊害だけを増幅させるような法改正を行うというのは断固反対だというふうに申し上げたいと思います。
そして、資格制限についてもお聞きしたいんですが、資格制限についてというわけじゃないんですが、法務省は、二〇一七年の十二月に閣議決定された再犯防止推進計画、この計画に基づいて、翌年の二〇一八年に千人の協力雇用主に対するアンケートを行っていらっしゃる。これは非常に参考になるんです。私も読ませていただきました。今回はこういうアンケートは行っていないんですね。資格制限していいというふうにしようというにもかかわらず、それがどういう影響を与えるのか、そういう調査を行っていない。
大臣にお聞きしますけれども、どういう調査がいいかというのは確かにあると思います。協力雇用主がいいのか、あるいは、先日、片山参考人が日本看護協会に問い合わせたと。そうしたら、もう看護師になれないという答えが来たとか。だから、そういう協会とか業界団体がいいのか、それはまだ分かりませんが、いずれにしても、今回の資格制限の法規定の改正がどういう影響をもたらすのかというのは、やはり法案を出している法務省として何らか調査すべきじゃないかと思うんですが、そういう調査を行う予定というのはないんでしょうか。
○上川国務大臣 本法律案におきましては、十八歳以上の少年のとき犯した罪により刑に処せられた場合につきましては、少年法第六十条の資格制限の特則を適用しないこととしております。
御指摘のとおり、若年者の再犯防止、社会復帰のためには、就労の促進は極めて重要と認識しております。国会におきまして、御指摘を踏まえた上で、この法律案が成立した際におきましては、若年者に焦点を当てた前科による資格制限の在り方につきましては、関係府省と連携をし、政府としてもしかるべき検討の場を設けることとしているところでございます。
その際には、例えば、今委員御指摘のような調査でありますが、若年者の社会復帰に際してのニーズにつきまして、協力雇用主を含めた有識者からの意見を賜りつつ、所要の調査を行うことを考えます。
○藤野委員 本来であれば、法案を出される前にそういう調査をされるべきだと思うんですね。そして、その立法事実に基づいて、法案を出されるなり出されないなり、やるべきだと思うんですが、今回はそれのないまま、先日の答弁だと把握もしないまま、この資格制限、法改正しようとしているということになります。
こうした今回の法改正というのは、私は、世界の流れとも逆行するというふうに思っております。
例えば、子どもの権利条約の四十条二項というのは、刑罰法規を犯した少年に対する手続の全ての段階における子供のプライバシーの尊重を保障しております。また、少年司法運営に関する国連の最低基準規則、いわゆる北京ルールズ、これの八条も、少年のプライバシーの権利はあらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつき得るいかなる情報も公表してはならないとされているんです。ですから、推知報道を解禁するというのは、こうした世界の到達点から大きく逆行してしまうことになります。
そして、適用年齢そのものについても、世界では引き上げる動きもあるわけです。アメリカは、一九八〇年以降、少年法について、今の日本のように、厳罰化、厳罰化ということが進められました。しかし、二〇〇〇年代以降、幾つかの州で適用年齢を引き上げる、日本と真逆の動きが出てきております。
配付資料の二を見ていただきますと、これはバーモント州における少年の再犯についての調査結果がまとめられた資料であります。
これによりますと、家裁で非行と裁定された少年がその後三年以内に刑事裁判で有罪判決を受けた割合というのは二五・二%ですね。黄色い枠の中の左の青い棒グラフです。刑事裁判で有罪を受けたその少年がその後三年以内に再度有罪判決を受けた、つまり再犯した割合というのは、その横の赤い棒グラフで四七・九%に上っている。だから、厳罰化したんだけれども、それがもう全然、再犯がもう倍近く増えてしまって、厳罰化が再犯防止としてうまく機能していない、こういう知見が得られたわけですね。
もう一つは、二十代半ばまで脳が成長、発達して、成熟を続けるという脳科学の知見、これも反映していると言われておりますが、これら二つの理由から、このバーモント州、アメリカの北東部にあるバーモント州では州法の法改正が行われました。二〇二〇年までに十八歳を十九歳にする、二〇二二年までに十九歳から二十歳に引き上げる、こういうことが起きているんですね。
アメリカでは、イリノイ州やコネティカット州でも同じような動きが起きておりまして、やはりそういう動きが出てきている。もう実際の再犯率とかにも出てきているんですね。
アメリカだけじゃなくて、国連の子どもの権利委員会は、二〇一九年に一般的意見二十四というのを出しておりまして、この一般的意見というものの中で、十八歳以上の者に対する子供司法制度の適用を認めている締約国を称賛するという一文が二〇一九年に追加されました。称賛する、つまり、十八歳以上にも少年司法制度の適用を認めている締約国を、いいねといって称賛しているわけです。
大臣にお聞きしますが、やはり、国連とか、ほかの国でも、適用年齢を含めて引き上げていくことも称賛されている。今回の法改正というのは、こうした流れから逆行しているというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
○上川国務大臣 今回、少年法の適用年齢の引下げに当たりましても、世界の中の動向につきましては、委員の御指摘いただいたアメリカも中心に調査をさせていただいているところでございますが、コネティカット州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州につきましては、これまでの十六歳から十八歳に引き上げ、また、イリノイ州、ミシシッピ州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ルイジアナ州、サウスカロライナ州、ミズーリ州は十七歳から十八歳に引き上げるということでございます。先ほど御紹介いただいたバーモント州につきましては、私法上の成年年齢十八歳ということでございますが、十八歳から二十二歳に引き上げた州ということでございます。
各国におきましてそうした状況が、アメリカの場合には大きな国でありますので州によってということでございますが、歴史や法文化、社会情勢、犯罪情勢等の状況に応じて形成されたものでございまして、国民の信頼、これを基礎として成り立っているということでございまして、適用年齢だけ捉えて諸外国の少年法制と比較することはなかなか難しい、適当ではないというふうに思っておりますが、年齢の区分につきましては、生まれてからずっと年齢区分でいろいろな法律ができておるところもございますので、情勢に応じまして、いろいろな角度からフォローしていく必要があろうかというふうに思っております。
○藤野委員 個別の国じゃなくて、私は、国連が、そういう世界の知見も踏まえて、この一般的意見というのは結構ちゃんと検証した上で出されるんですけれども、その上で、二〇一九年に、十八歳以上を法適用した国は称賛するという一文が加わったわけです。そういう意味で、やはり世界の流れだと思うんですね。
法務省の矯正局にお聞きしたいんですが、要綱の中で、若年受刑者に対する処遇調査の充実として、鑑別の対象となる受刑者の年齢の上限を、二十歳未満からおおむね二十六歳未満に引き上げるとしております。その理由は何なんでしょうか。
○大橋政府参考人 お答え申し上げます。
おおむね二十六歳未満の受刑者につきましては、改善更生のため、その特性に応じた矯正処遇を更に充実させることが重要であるとして、法制審議会の議論におきましては若年受刑者の充実した処遇が議論されておりまして、その前提として、個々の受刑者の問題性を的確に把握することが重要である、これらの者に対する刑事施設での処遇調査において、少年鑑別所の鑑別に関する知見等を若年受刑者に活用することが有効であると考えられることから、鑑別の対象となる受刑者の年齢の上限を、現行の二十歳未満からおおむね二十六歳未満に引き上げることとされたものと承知しております。(藤野委員「可塑性があるの」と呼ぶ)その元々の御議論の中でも、一般的に他の年齢層に比較して可塑性に富んでいるというふうな御議論がございます。
○藤野委員 ですから、そういう鑑別所の実務の積み重ねで、おおむね二十六歳までは可塑性に富んでいると。だから、刑事ですけれどもね、少年じゃないんですけれども、刑事の分野では、二十六歳まで鑑別の対象を引き上げようというふうになっているわけです。ですから、そういう意味で、日本の中でもそういう状況が生まれていますし、先ほど言ったバーモント州でも脳科学の発展ということも取り入れられているわけですね。
ですから、大臣にお聞きしますけれども、五年後の見直しというのがあるんですが、こうした国内外の動向や科学的な知見の発展も踏まえて、むしろ、例えば特定少年については元に戻すとか、あるいはむしろ引き上げるとか、そういうことも方向性として否定はされない、そういうこともあり得る、そういう理解でよろしいですか。
○上川国務大臣 本法律案の附則第八条におきまして、施行から五年後の検討について規定をされているところでございますが、まずは、検討の前提といたしまして、本改正後の少年法、更生保護法、少年院法や成年年齢引下げに係る改正民法の施行状況のほか、これらの法制の施行後におきましての社会情勢、国民意識の変化等を的確に把握することが必要となるところでございます。
そのため、これらの前提条件が明らかでない現時点におきまして、可能性としてでありましても、どのような方向性での検討があり得るのかにつきまして、今の段階で私が申し上げるということについてはなかなか困難であるということにつきまして、また適切でもないのではないかというふうに理解をしております。
○藤野委員 いや、そういう方向性だと言ってほしいというわけじゃないんですよ。あらゆる方向性が否定されませんねという、当たり前のことというか、いろいろ知見も発展しますし、そういうので実際、引き上げた国もあるわけで、可能性としては、私は当然あり得るというふうに思います。
大臣は今日の委員会でもおっしゃいましたし、四月二日の当委員会で、私に対して、今後の運用について、第一条の理念に照らして、基本的人権をしっかりと守りつつ、矯正保護につきましては十分に少年法の趣旨、理念が生かされるよう運用していくべき事柄というふうに考えていますというふうに答弁されていまして、これはやはり本当に大事だと思うんですね。今後どういう運用がされていくのかという場合に、やはり、この大臣の答弁、十分に少年法の一条の趣旨が生かされる方向での運用というのを強く求めたいと思うんですね。
最後になりますけれども、私もやはり、国民世論との関係、これは本当に大事だと思っていまして、やはり、誤解が多く、そのままになっていると思うんです。少年法は甘いとか、少年犯罪は凶悪化しているとか。時々のトピックとなるような事件があると、とりわけそうなるんですけれども、やはり、少年犯罪は、実態としてはそうではないし、減ってきているし、凶悪化もしていない。ただ、それが国民世論との間で大きな乖離がある。この乖離をそのままにしたままでは、仮に五年後、同じような法改正を審議されたとしても、冷静な法律審議にはならないと思います。
やはり、私が法務省に求めたいのは、こういう国民世論と少年犯罪をめぐる事実との乖離をなくしていくために、この間大臣がおっしゃっているのは、世論調査の分析というか何というか、こういう見方もあるみたいな話ですが、そうじゃなくて、やはり法務省自ら、法務の実態に合わせて、国民世論、理解していただく、そういう能動的な努力が必要ではないかということなんです。
先日紹介したのは、一九六六年当時の法務大臣である石井光次郎大臣はこうおっしゃっているんですね。国の将来を背負う大事な青少年を扱う法律だから、縄張り争いなどというくだらない疑いを受けないよう、真正面から堂々と話を進めていくことが一番だといって、複数の少年法改正の試案を出して世に問うんですね。やはりこの姿勢が大事なんじゃないか。
それに対して、当時の司法府、最高裁も真正面から応えるんです。家裁の長官の会議を開いて、高裁の長官の会議も開いて、そして最高裁が特別の委員会をつくって四回も議論をして、意見書をまとめる。
当時の横田最高裁長官がこうおっしゃっています。
非行少年の問題は、少年の環境、教育などの問題も含め、広い視野と高い識見の下に検討すべき大きな問題である、法務省が、この問題の取扱いに慎重であり、立法当局者だけで立案を進めないで、広く世に意見を問う態度を表明していることは誠に意義のあることである、こうおっしゃっていまして、私は本当に意義のあることだと思うんです。こうした当時の政府や最高裁の姿勢が、当時の国民世論の形成に大きく寄与したことは私は間違いないと思うんですね。
なので、大臣にお聞きしますけれども、その前にもう一つ、ちょっと紹介しますが、最高裁の判事も務めた団藤重光教授が、少年法三十五周年に当たって、こう述べているんです。
少年法は、司法の分野に足場を置いているだけではなく、広く教育と社会福祉の領域にも関連を持ち、その交差点にあって、独特の法領域を成し、独自の機能を有するのであると。独特の法領域を成して、独自の機能を有していると。で、少年の問題をめぐる司法と教育と福祉のどの領域にも深い関連のある少年法の意義と機能は極めて重大である、こう団藤教授が言っているんです。
これで、大臣にお聞きしたいんですけれども、例えば今後、最高裁とか家裁とか、日弁連とか刑事法学者、いわゆる司法の分野、これも大事なんですが、同時に、やはり例えば教育とか社会福祉の関係者とも連携して、少年法をめぐる本当の意味での国民世論、これを喚起していくために、法務省としてのイニシアチブを発揮していただきたいと思うんですが、その点について御答弁いただきたい。
○上川国務大臣 法律案につきましては、附則八条におきまして検討が求められているところでございます。 いずれにいたしましても、多角的な観点からの検討が行われるように、私としても適切に対応してまいりたいというふうに考えております。
○藤野委員 もう終わりますが、やはりそういう意味での大きな法案だ、少年法というのは本当に大事な法案だと。それを、やはりこれだけの審議で終わるというのは、私たちは強く反対して、質問を終わります。
作成者 : fujinoyasufumi