衆院法務委員会 検察官定年延長問題
衆院法務委員会で質問に立ちました。
法務省は定年延長の根拠として100年前の第44回帝国議会の審議を挙げています。
しかし、当時の議事録を読むと、「定年制度は司法の独立を害するのではないか」が問われ、当時の原敬総理が「そうはならない」など答弁に追われていました。
- 会議録 -
○ 松島委員長 それでは、藤野保史さん。
○ 藤野委員 日本共産党の藤野保史です。
森大臣は、昨日の会見、そしてきょうの委員会冒頭で、この間の一連の答弁について一定の謝罪と撤回を行いました。しかし、この問題の重大性に鑑みれば、謝罪と撤回では到底済まない。きょうも、先ほどの川内委員の質問のときに、内閣人事局と一月二十三日に協議していたという新しい事実も出てまいりました。
本当に、この間の事態、私も予算委員をやらせていただいておりまして、ずっとこの問題、質疑を聞いてまいりましたけれども、森大臣が法務大臣という重責を担う資格があるのか、ますます厳しく問われていると思います。
私は、国会への答弁のあり方という問題と、そしてその答弁の中身、ちょっと分けてお聞きしたいと思うんですね。どうやら答弁の中身については一定の謝罪と撤回をされたようですが、そもそも、国会に対して答弁が余りにもくるくるくるくる変わっているわけですね。
三月十一日の当委員会で山尾議員が、最初に逃げたこと、理由なく釈放したというこの大臣の発言を明示して、まず、これは事実かということを聞き、第二に、今回の解釈変更に関係あるのか、二点聞きたい、まず一点目はどうかというふうに、明確に事実のことを質問された、区分けして質問されたのに対して、事実でございますと断言されたわけですね。そして、第二点に入りました、その後すぐ。
ところが、その後、その部分については当時の個人的見解でございますと修正されたわけですね。
さらに、午後の参議院予算委員会では、一番初めに山尾議員にした、事実でございますという答弁は、三月九日の参議院予算委員会でそういう答弁をしたことを指すのだという趣旨の答弁、言いかえました。
大臣、お聞きしますが、こういう国会への大臣の答弁のあり方そのものについては今回何もおっしゃっていないように思うんですが、どのようにお考えなんでしょうか。
○ 森国務大臣 まず、令和二年三月十一日の衆議院法務委員会において、山尾委員からの御質問に対し、私が事実ですと御答弁したのは、参議院予算委員会での御指摘の答弁をしたのが事実ですという趣旨で申し上げたものでございますが、誤解を招きかねない表現であったと思うので、おわびを申し上げます。
○ 藤野委員 私が聞いたのは、答弁がくるくる変わっていることなんです。このことそのものについて、今、どういうお考えなんですか。何もおっしゃらないんですか。
○ 森国務大臣 答弁を一貫してしておると思いますが、誤解を招きかねない表現があったところについてはおわびを申し上げます。
○ 藤野委員 いや、今私が紹介したのは、全部同じ日なんです。同じ日なのに、答弁が二転三転しているわけですね。最後は内容について謝罪、撤回されたようなことをおっしゃっていますけれども、これについては後でお聞きします。
いかんせん、この問題は、本当に、大臣が今答弁されていることそのものも、一体本当に確定しているのかどうかわからないわけですね。
中身についてお聞きしますけれども、大臣は、個人的見解、法務省に確認した事実と異なる事実を発言しましたということを記者会見で述べていらっしゃいます。
前提として、法務省に確認したいんですが、森大臣は検察官が最初に逃げたと言うんですけれども、当時、二〇一一年三月十五日以降何があったのか、法務省としての事実認識を答弁してください。
○ 川原政府参考人 お答え申し上げます。
東日本大震災により、福島地方検察庁いわき支部管内におきましても甚大な被害が生じ、ライフラインも途絶するなどの状況となってございました。そのため、支部庁舎に関係人を呼び出して取調べを行うことが困難であり、大きな支障が生じておりました。
さらに、福島地方裁判所から執務場所を変更したい旨の申出がございましたので、福島地方検察庁いわき支部の執務場所を一時的に郡山支部に変更したものと承知をしております。
また、福島地方検察庁管内の被疑者等の釈放につきましては、検察官が個々の事案を慎重に判断し、終局処分が可能な者については起訴等の処分を行い、身柄拘束を継続する必要がないと判断した者について釈放の手続を行ったものと承知しております。
○ 藤野委員 今事実が述べられましたけれども、まず、最初に逃げたという部分については、地裁いわき支部の郡山への移転に伴い、地検のいわき支部も郡山に移転した、あくまで、いわゆる執務場所の一時的な変更であって、検察官が住居を変えたとか、あるいは検察官が県外に逃げたとかいうのは全くの事実無根であるということであります。
後者の、理由なく釈放という点についても、終局処分が可能な者については法の手続にのっとってやられたということですが、これはどういう法律に基づいてやられたんでしょうか。何条に基づいているんですか、刑訴法の。
○ 川原政府参考人 お答え申し上げます。
刑事訴訟法二百八条におきまして、勾留を請求した日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は直ちに被疑者を釈放しなければならないということでございまして、捜査、勾留中の被疑者につきまして、その勾留期間内に公訴を提起しなければ、検察官はその身柄を釈放するとなっておりますので、それに基づいて釈放しているものでございます。
○ 藤野委員 今答弁があったように、刑訴法二百八条なんですね。
私も、確かに、当時の検察の行動が全て、一〇〇%正しかったとは申し上げておりません。実際、当時の江田五月法務大臣、先ほど大臣も引かれましたけれども、全体として、例えば、関係機関との協議が十分でなかったこともあるとか、あるいは地域の皆さんに不安を与えたことも事実でございまして、全体状況としては、これは申しわけなく思っていると言わざるを得ませんというふうに、二〇一一年六月十六日の答弁もございます。確かにそういう面はあったと思うんですね。
しかし、私は、刑訴法二百八条、ここで、直ちに被疑者を釈放しなければならないと規定していることの意味は決して軽くないと思うんですね。
なぜ、直ちになのか。それはやはり、逮捕というのは身体を拘束するわけですね、行動の自由を奪うという、人権制約が非常に著しい措置であります。他方、まだ被疑者段階なんです。被疑者というのは、単なる取調べの客体ではなくて、防御の主体でもあるというのが刑訴法上の考え方であります。ですから、必要のない身体拘束はできるだけ認めるべきではない、これが貫かれているわけですね。
更に言えば、この刑訴法二百八条の背景には憲法があると思います。憲法における身体拘束の規定、いろいろありますが、三十四条には何と書いてあるか。「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と憲法三十四条に規定しております。
つまり、この三十四条だけで、直ちにという言葉が三回出てくるわけですね。それほど、最高法規である憲法は、身体の拘束ということについて厳しい制限を課しているわけです。憲法三十四条に三回も直ちにと書いてあることが、まさにこの刑訴法二百八条にも、直ちに釈放しなければならないと、十日以内に、勾留請求できない場合は。
だから、この当時、いろいろ事情はあったと思いますが、この二百八条に基づいて行われたということの意味そのものは、私は重いものがあると。これを、理由なく釈放したなどと言うのは、本当に事実無根だと言わざるを得ないと思います。
そして、大臣は、ちょっと確認したいんですが、先ほど来、法務省が確認した事実と異なる事実を述べたとおっしゃっているんですね。それはまことに不適切であり撤回したとおっしゃっております。撤回したとおっしゃるんですが、何を撤回したのか。要するに、個人的見解なるもの、大臣が個人的見解としてお持ちの、その見解そのものをもうとっていないということなのか、個人的見解は今も変わらないんだけれども法務省の見解と違うからその部分は撤回した、こういうことなんですか。どっちなんでしょう。
○ 森国務大臣 私が撤回いたしましたのは、三月九日の参議院予算委員会における、東日本大震災発生当時の福島地検いわき支部の検察官の活動に関する答弁についてでございます。
○ 藤野委員 ということは、もうそれは、法務省の確認した事実が大臣の個人的見解と違うわけですから、大臣の個人的見解そのものを撤回したということですか。
○ 森国務大臣 私が大臣としての答弁の場で個人的見解、個人的評価を申し述べたことはまことに不適切だというふうに思っておりますので、個人的見解については、この場では申し上げることはいたしません。
○ 藤野委員 ということは、個人的見解は今も、今も最初に逃げた、今も理由なく釈放した、こう思っているということですか。
○ 森国務大臣 大臣として個人的評価を申し上げることは差し控えたいと思います。
○ 藤野委員 要するに、謝罪、撤回したとおっしゃいますけれども、全くしていないと私は感じました。
森大臣はこの間五回質問されたとおっしゃいましたが、私は当時の議事録も読ませていただきました。先ほど刑事局がおっしゃったこととほとんど同じようなことを大臣もおっしゃっているんですよ。ですから、五回も質問されたのならそういう事実はわかっていたはずなのに、大臣になってもおっしゃっている。今も、聞いても、その個人的見解は撤回したとはおっしゃらないというわけですね。
こういう方が法務大臣をやるということは、私は大変恐ろしいなというふうに思うんですね。法務省が確認した事実に耳をかさない。大臣という職にありながらも、その法務省が確認した事実と異なる事実というものを繰り返された。
大臣、検察というのは唯一の公訴提起機関なんです。公訴するかしないかを決められる唯一の機関。時には総理大臣も逮捕、起訴する、そういう機関であります。非常に重い責任と非常に重い職責を負っているわけです。事実認定はその根幹なわけですね。
そして、検察庁法の十四条では、法務大臣には検事総長への指揮権という極めて重い権限まで与えられているわけです。その法務大臣が、法務省が確認した事実と異なる事実に長年にわたって固執して、今も固執している、法務大臣になって以降も事実と異なる発言を繰り返している、その見解について撤回を明言しない。こういう人が法務大臣の職にとどまる。本当に、私は恐ろしいと思うんですね。到底、謝罪と撤回で済むような話ではないと言わざるを得ないと思います。
そもそも、大臣、何で福島の話をする必要があったのか。
大臣は、九日の小西参議院議員の質問に対してお答えになった、福島にお触れになったわけですが、十一日の当委員会の質疑で、山尾議員からの、これは本当に今回の解釈変更に関係しているんですかという質問に対して、こうお答えになっています。今回、解釈変更をして、勤務延長する場合に、人事院が示した規則の中に三つの例がございますけれども、離島などにいる場合というのが一つの例として定められていると思います、こう答弁されているんですね。
私は人事院規則一一―八の第七条について二月二十日の予算委員会でも聞きましたが、確かに三つあるんですね、一号、二号、三号。一号は「職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。」二号が、これは離島のことだと思いますが、「勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。」そして三号が「業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。」こうあるんですね。確かに三つの例です。
大臣にお聞きしますけれども、確認しますけれども、離島などにいる場合というのは、この二号についてですね。
○ 森国務大臣 もう撤回した答弁でございますけれども、その撤回した答弁は、勤務延長することが公務遂行上必要になることがあり得る場面について、東日本大震災のような大規模災害を例示的に述べたものにすぎませんが、これはもう答弁としては撤回をいたしました。(藤野委員「二号ですね。委員長、答えていません」と呼ぶ)
○ 松島委員長 質問者は三つの例のうちの何号に当たるかという質問ですので、それに対し簡潔にお答えください。
○ 森国務大臣 失礼いたしました。
離島などの例というのは、二号のことでございます。
○ 藤野委員 大臣は、二月二十日の予算委員会での私の質問に対して、今回の解釈変更において、黒川氏に適用したのは人事院規則の何号ですかと私が質問しましたら、三号ですと答弁されているんですね。十一日の当委員会でも、大西委員に同様の答弁をされております。
三号は、先ほど言ったように、業務上の性質なんですね。二号は、今言ったように、勤務環境なんです。全く両者は異なりますし、今回の解釈変更に関するのは三号なんです。
大臣にお聞きしますが、何で三号ではなくて、二号に関係する福島のことを答弁されたんですか。
○ 森国務大臣 まず、一般的な勤務延長の解釈変更と個別の人事は別の事柄でございます。
まず、一般的な勤務延長の解釈変更については、さまざまな事柄を考慮して勤務延長に至りました。それは、一号とか二号とか三号の、その具体的に固定したものではなく、さまざまなことを検討して解釈変更に至りました。また、それと個別の人事については別の当てはめでございます。
○ 藤野委員 いや、全くよくわかりません。
私が聞いたのは、今回の解釈変更に関係あるんですかという山尾議員の質問に対して、福島の例を出されたんです。これは二回目なんです、一回目じゃないんです。ですから、何で二号なのかと、三号を適用しているのに。答えになっていないわけですよ。何で答えになっていない答弁をされたんですかという質問なんです。
○ 森国務大臣 私は、どのような社会情勢の変化があって勤務延長が必要になったのでしょうかなどの問いに対して、例えばということで例を述べたものでございます。それは、個別の人事の当てはめとは違います。
○ 藤野委員 全く違う。
その答えは、小西委員がどういう状況の変化があったんですかと言うときに答えるのならわかりますよ。私が聞いたのは、山尾議員の今回の解釈変更に関係があるんですかという二点目の質問、ここに対して、大臣が二号で答えられたことなんです。
今回の解釈変更は三号なんです、大臣自身がお答えになったように。何で違うんですかということを聞いているんです。関係ないですよね。
○ 松島委員長 ちょっと速記をとめてください。
〔速記中止〕
○ 松島委員長 速記を起こしてください。
大臣。
○ 森国務大臣 委員の御指摘の山尾委員の御質問というのが令和二年三月十一日の御質問のことかというふうに思いますけれども、ここで山尾委員が、これは事実なんですかということと、これは本当に今回の解釈変更に関係しているんですかという、この二点を聞きたいと思いますというふうにおっしゃいました。まず一点目、いかがですかということに対して、はい、事実でございますと答えました。そしてその後、二点目についてということで、自然災害のことについて述べております。
これは、勤務延長という法律の解釈変更について述べたものでございまして、個別の人事のことを答弁しているものではございません。
○ 藤野委員 要するに、答えないんですね。勝手に質問をねじ曲げて、自分の答えたいことを答える。
今回の解釈変更に関係しているんですかと聞いたら、今回の解釈変更というのは三号にかかわることなんですよ。私のときにはそう答えられているんだから。もういいです。
要するに、こういう答弁の仕方も含めて、本当に大臣としての資質が問われると思うんですね。
もう一点聞きたいと思います。
先ほど葉梨委員からもありましたが、参議院予算委員会の質疑中に、その議場外でマスコミの取材を受けたと報じられている。普通、国会で取材するようなプロの政治記者の皆さんは、予算委員会がやられていて、そこのまさに中心的な大臣が中座されたとしても、それはトイレとかそういうことであって、そこでぶら下がりするなんということはあり得ないんですよ。極めて異常なことが起きた。不自然なんです。報道で、秘書官がその後今のは使わないようにと言ったというのを報じられていますが、それぐらい異常なことなんですよ。だから、これはよくわからない。
大臣、お聞きしますが、マスコミから取材があったんですか。それとも、大臣からマスコミに発言をされたのか。どっちが先だったんでしょうか。
○ 森国務大臣 私が離席中に記者から質問を受けて答えてしまったことについては、まことに不適切な行動でございました。深くおわびを申し上げます。
○ 藤野委員 これは極めて不自然だと思いますね。
これについては今後も引き続き調査したいと思いますが、午前中の衆議院当委員会で行った答弁が大問題になって、急遽、午後の参議院予算委員会に大臣が出席することになった、まさにその審議中ですよ。
では、仮にマスコミから受けたとして、不適切というのは、大臣おっしゃいましたが、どういう点が不適切だという御認識なんでしょうか。
○ 森国務大臣 予算委員会の審議中に記者の質問に答えたことがまことに不適切だというふうに承知をしております。申しわけございませんでした。
○ 藤野委員 要するに、三権分立ということが本当におわかりになっているのかなと。みずからの発言で、議員の質問を追加する、変更する、質問できなくなった方もいらっしゃるんですよ。そういう事態を引き起こしておいて、何が不適切なのかもはっきり言わない。本当に許せないというふうに思います。
ちょっと、この点でお聞きしたいのは、先ほども出ましたけれども、総理から厳重注意を受けたとおっしゃるんですが、先ほどの川内委員に対する答弁では、とても厳重とは思えないんですけれども、要するに何を注意されたんですか。ポイントで結構ですので、お答えください。
○ 森国務大臣 総理から厳重注意を受けた内容につきましては、まず、法務大臣として、検察庁を所管する法務大臣としての、法務省としての確認した事実を確認せずに、個人的見解を答弁をしてしまったことについて厳重に注意を受けました。そして、国会での御質問に対しては真摯に対応するようにという御注意を受けました。
○ 藤野委員 それでは、一体何が問題で、要するに、先ほどの質問とも絡むんですけれども、安倍政権としては、一体今回何が問題になっているのか、どういう認識。どういう性格の問題、議会と行政のあり方なのか、大臣の答弁のやり方なのか、あるいは答弁の中身なのか、それが及ぼした問題なのか、何を安倍政権としては問題にしているというふうに我々は受けとめたらいいんでしょうか。
○ 森国務大臣 総理からは、法務省として確認した事実と異なる個人的評価を答弁をしてしまったことについて厳重に注意を受けました。今後の国会の御審議におきまして、御質問に対してはより一層誠実に対応するようにというふうに御注意を受けたところでございます。
○ 藤野委員 やはりよくわからないんですね。
私は、森大臣の一連の答弁やぶら下がり等の対応も、これは法務大臣としては到底許されないと思います。同時に、何で法務大臣がこういう対応に陥ってしまったのか。これはやはり安倍総理が、安倍政権が黒川検事長の定年延長という極めて無理筋の閣議決定を行ったからなんですよね。その総理が森大臣を厳重注意する。まさにブラックジョークのような話だと私は思います。
やはり謝罪、撤回すべきは安倍総理であって、撤回すべきは安倍政権が行った閣議決定そのものだと思います。このことも厳しく指摘しておきたいと思います。
その上で、定年延長そのものをめぐっても、今の、事実をねじ曲げたり、いろいろしていくというのは繰り返されているんですね。配付資料の一をごらんいただきたいんですけれども、これは法務省が三月五日の法務委員会理事懇談会に提出してきた文書であります。全部つけているので申しわけないんですが。
実はこれは、当初は野党からの資料請求だったんですが、理事懇での議論の結果、与党の皆様の御了解も得て、法務委員会理事懇談会として正式に文書で対応を法務省に求め、それに対して法務省が文書として回答してきたものです。非常に重みのあるものだと私は受けとめております。
この四枚目を見ていただきますと、上の丸というのは理事懇側からの要求なんです。解釈変更を是とする法務省としての今般の意思決定に至る過程及び結果を跡づけ又は検証できる文書の提出、これを求めました。それに対して、回答として、法務省から、今般の解釈に関する意思決定過程等を明らかにする文書として、三つの文書が提出をされました。
そのうち、きょうは、主に「検察官の勤務延長について(二〇〇一一六メモ)」、これは資料の八枚目になるんですが、これを見ていただきたいと思うんですね。ここにこういう記述があります。
検察官の定年に関する規定については、昭和六十年の国公法改正により一般の国家公務員に関する定年制度が導入される以前に存在していたことから、定年年齢に差異がある点については、職務と責任の特殊性に由来するというほかはないが(伊藤栄樹「新版検察庁法逐条解説」)、検察官の定年制度そのものの趣旨としては、検察庁法のいわば前身である裁判所構成法(明治二十三年法律第六号)の審議においても、後進のために進路を開いて新進の者をしてその地位を進めして、もって司法事務の改善を図るということの目的のためになどと説明されていたところであって(第四十四回帝国議会衆議院)、適正な新陳代謝の促進等により能率的な公務の運営を図るといった国公法の定年制度の趣旨と差異はないと考えられる、こういう記述なんですね。
つまり、戦前の裁判所構成法と今の国公法は趣旨が同じなんだから、国公法で検察官に定年延長を認めてもいいよ、こういう論立てになっております。これは本当にそうなのか。
せっかく法務省が第四十四回帝国議会というものを示していただいたので、私は読んでみました。配付資料の二を見ていただきたいと思うんですが、これは、一九二一年、大正十年になりますけれども、二月七日、貴族院本会議の質疑であります。仲小路廉議員の質問で、ちなみにこの方は検事なんですね、こうおっしゃっています。
是ニ付マシテ私共ノ疑ヲ懐キマス点ハ、第一ニ判事ニ対シテ之ニ一定ノ年限ヲ定メテ、其年限ニ到達スレバ其職ヨリ之ヲ退カシムルト云フコトガ、是ガ憲法ニ牴触ハシナイノデアルカ、此憲法ノ精神ニ違フヤウナコトハナイカ、是ガ第一ノ疑デアリマス、ト申スハ憲法五十八条
これは大日本帝国憲法ですけれども、
憲法五十八条ニ於テ、「裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其職ヲ免セラルヽコトナシ」斯ウアル、然ニ今度ノ規定ニ依レバ裁判官ガ或一定ノ年限ニ達スルト其職務ヨリ退カシムル、斯ウ云フコトニナッテ居ルノデアルカラ、スレバ今度ノ規定ハ憲法五十八条ノ規定ト牴触ハシナイカ、是ハ私ノミナラズ同僚各員ニ於テ多ク懐カレル疑問デアリマス、
こういう質問なんですね。
つまり、四十四回帝国議会では、裁判所構成法に定年制度、定年延長制度を導入することが、当時の大日本帝国憲法五十八条、司法の独立を害するのではないかということが大問題になったんですね。
この質問に対して答弁をしたのが原敬総理大臣、史上初の政党内閣を率いた総理大臣であります。
二ページ飛ばして、二百四十一ページの下段の方を見ていただきたいんですが、原総理はこう答弁しております。
今日提案イタシテ居ルヤウナルコトハ、左様ナル種々ノ弊害ヲ予期シテ、是ハ不当ナル案ナリト断定スルベキモノデハナカラウト考ヘル、ナゼト申スノニ、憲法ニ於テ裁判官ノ位置ヲ保証セラレタルノモ、裁判所構成法ニ於テ之ヲ保障シテ居ルノモ、要スルニ行政官ノ意思ナドニ依テ、勝手次第ニ裁判官ノ位置ヲ動カシテハ相成ラヌト云フ精神ヨリ、保障シテアルノデアリマス、
ちょっと飛びますが、
行政官ノ意思ニ依テ動カスコトガ宜シクナイト云フガ為ニ、憲法並ニ裁判所構成法ノ規定アリタリト解釈イタスノガ適当ナリトシマスレバ、今回提出ノモノハ行政官ノ意思ニ依テ動クノデアリマセヌ、
つまり、大臣、第四十四回帝国議会では、行政官の意思によって司法への介入に道を開くのではないか、裁判所構成法はそれに道を開くのではないかという懸念が示されて、当時の総理大臣始め、ほかの議事録にも、大臣とか役人が繰り返し繰り返しこれを否定しているんです。(発言する者あり)いや、これはきょう、時間の関係で、やるんですが、後でそれは、じゃ、言いましょう。
要するに、行政官の意思で勝手次第に裁判官の位置を動かしては相ならぬ精神、これこそが裁判所構成法の根本的な趣旨なんですよ。提案者の内閣トップである総理の答弁から明らかであります。
これを今になって、事もあろうに、その行政官である法務省が行う解釈変更の根拠にするなど、大臣、これは許されないんじゃないですか。
○ 松島委員長 速記をとめてください。
〔速記中止〕
○ 松島委員長 速記を起こしてください。
川原刑事局長。
○ 川原政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘のペーパーは私ども刑事局の内部の検討の際に用いたペーパーでございますので、私の方から御答弁させていただきますが、今委員が御指摘になった部分は、定年制度の趣旨が裁判所構成法と同じであるということを記載しているだけでございまして、勤務延長の解釈変更の根拠となるものとしてこれを指摘しているものではございません。
○ 藤野委員 いやいや。法務委員会の理事会に正式に皆さんが何と言って出してきたか。今般の解釈に関する意思決定過程等を明らかにする文書として出されてきたんですよ。
三つ出されてきています。この三つの文書に、定年制度の趣旨というのが何回も出てくるんですね。定年制度の趣旨の範囲内であればいいとか、定年制度の趣旨に合致するから今回やるんだ、そういう論立てなんですよ。
この三つの文書のうち、では、その定年制度の趣旨の根本は何ですかというのを書いているのは、ここしかないんです。この四十四回帝国議会というものしかないんですよ。文言まで出されている。
実際、確かに、定年制度の文言はありますけれども、実際に議論されたのは、それをやってしまったらまさに司法の独立を侵すじゃないですか、こういう話なんです。それこそがまさに趣旨になっているわけですね。
重ねて大臣にお聞きしますけれども、同じ資料の二百三十九ページの上段に、仲小路廉さん、こう聞いているんです。
唯今政府、唯今ノ司法大臣ニハ決シテ左様ナコトハアルマイト私ハ思フ、若シモ他日甚ダ不当ナコトヲ為ス政府、甚ダ不条理ナコトヲスルヤウナ司法大臣ノ在職ノ時ニハ、ドンナ法律ノ制度ヲ立テラレルカモ知レナイ、
如何ナル悪法モ法ハ法デアルト云フ名ノ下ニ、遂ニ憲法ノ精神ヲモ蹂躙シテ仕舞ッテ、行政権ガ全ク司法権ヲ併合シ終ルヤウナ結果ガ出来テハナラヌノデアル、
これに対して、原総理は何と答えているか。
斯様ナル法律上規定ヲ設ケマシタナラバ、後ニハ乱暴ナル政治家ガアッテ、国民ノ信頼スル所ノ裁判官ノ位置ヲ動揺セシムルガ如キ、無法ナル案ヲ提出イタサナイトモ限ラヌ、斯ウ云フ御心配モアリ其他色々列挙セラレマシタガ、是ハ成程サウ心配イタセバ私共モ心配セザルニアラズデアリマス、併シ左様ナル乱暴ナル人ガアリマシテ法案ヲ提出シタ場合ニ、両院ガ之ニ協賛ヲ致スダラウトハ常識上予期サレヌノデアリマス、然ル以上ニハサウ云フ人ガアリマシタ処ガ、サウ憲法ヲ無視スルヤウナ乱暴ナコトハ、恐ク其気遣ヒハナイト常識上今日ハ考ヘテ置カナケレバナラヌノデアリマス、
私は、これは百年前の議事録なんですけれども、百年前の議事録なのに、今の国会を見て書いたようなやりとりだというふうに思って読みました。
大臣、お聞きしますが、今度は大臣にお聞きします。
今大臣がやっていることは、百年前に原敬総理大臣が常識上あり得ないと言っていた、この常識上あり得ないというのは国会に法律を提出するということなんですよ。乱暴なる政治家が法律を国会に提出することは常識上予期されぬのだ、仮にそういうことがあっても、国会がそれを否定するだろう、こういうことなんです。ですから、法律の前提なんですけれども、大臣がやっているのはそれですらない。まさに、原総理が百年前に常識上あり得ないと言ったことをはるかに超える異常なことなんです。
三権分立というものを根底から覆すものだ、そういう認識はありますか。
○ 森国務大臣 委員の御説明は裁判官の話であると思いますが、司法権の独立の確保のため、検察官の独立性も要請されるものと承知をしております。
他方で、検察官も行政官であり、一般職の国家公務員でございます。そして、勤務延長制度の趣旨は検察官にもひとしく及ぶというべきであることなどからすれば、検察官の勤務延長については、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈でき、何ら検察官の独立性を害するものはないと解しております。
○ 藤野委員 戦前の裁判所構成法は、検事と判事で定年延長を明確に区別しているんですね、手続上。裁判所構成法七十四条の二のただし書きでは、判事については、三年間以内の定年延長をする場合は、大臣だけではなくて控訴院又は大審院の総会の決議が必要なんです。ところが、同じ法律の八十条の二では、検事については、そういう特別の、他の機関の総会決議は要らないんです。司法大臣だけでできるんですね。
つまり、戦前というのは、司法の独立という場合に、検事はそれに関係しないものとされて、一段低くされていたんです。ところが、現行憲法は、それを司法に準ずるものとして身分保障を強めたんですね。だから、よりその趣旨が当たるわけですよ。それを、今回まさにやろうとしている。
最高裁と法務省、両方確認しますけれども、端的にお願いしたいんですが、裁判所構成法に基づく定年延長の事例というのはあったんですか。
○ 川原政府参考人 お答え申し上げます。
裁判所構成法に基づいて検事について定年延長を適用した例がわかる資料は見当たりませんので、お尋ねの点については承知していないところでございます。
○ 堀田最高裁判所長官代理者 裁判所についてお答え申し上げます。
裁判所構成法に基づく判事の定年延長の適用例がわかる資料は見当たらなかったところでございます。
○ 藤野委員 私もいろいろ探しましたが、要するに適用事例がないんですね。何でないのか。
それはやはり、これまで見てきたように、戦前の国会で大問題になったからなんですよ。裁判所構成法が司法権の独立を侵害するのではないかという質問が相次いで、総理や大臣や役人が否定に追われるわけです。ですから、これは結局適用されずに死文化を余儀なくされたというのが裁判所構成法の定年延長制度なんです。
大臣、死文化してしまった制度を、今回、法務省自身が出してきた文書で、定年延長制度の趣旨だといって根拠にしている、こんなことはあり得ないんじゃないですか。
○ 森国務大臣 根拠にもしておりませんし、延長例がないかどうかも資料がないのでわからない状況でございます。
○ 藤野委員 いや、ちょっとそれはまたやりますけれども、私がお聞きしたいのは、要するに、過去の国会審議があたかも法務省の見解を正当化するような文書なんです、法務委員会の理事懇に提出してきたのは。こういう根拠がありますよといって、定年制度延長があたかも国会審議に基づくかのような資料を国会に提出した。これは私は許せないと思うんです。
法務省自身が意思決定過程を明らかにする文書という位置づけで、与党を含めた理事懇の正式な懇談会に、こういうむちゃくちゃな、全く事実と異なる文書を出してきた。この責任を大臣はどのようにお感じになっていますか。
○ 松島委員長 質疑持ち時間が終了いたしましたので、簡潔にお願いします。
○ 森国務大臣 御指摘の文書につきましては、これまでの議論の経過を示すものを提出いただきたいという御要請に基づいて、日付のあるものを提出したものでございます。
○ 藤野委員 確かに求めに応じて、求めました、そうしたらこれを出されてきたわけですね。しかし、国会の求めに応じて出した文書で……
○ 松島委員長 質疑持ち時間が終了いたしましたので、まとめてください。
○ 藤野委員 終わります、終わりますが、国会の求めに応じて出した文書で国会を欺こうとする、こんなことをする大臣に大臣の資格は到底ない、このことを主張して、質問を終わります。
会議録PDF
20200313_homuiinkai_Fujino_kaigiroku
質疑資料 PDF
20200313_homuiinkai_Fujino_shiryo
しんぶん赤旗 2020年3月14日2面記事 PDF
作成者 : fujinoyasufumi