法務委 民法・相続土地国庫帰属法案 参考人質疑
法務委で民法・相続土地国庫帰属法案の参考人質疑。
いわゆる「所有者不明土地」問題とも関係する法案です。
全国で空き家や所有者不明土地がなぜ生まれるのか?
参考人の皆さんの意見を聞いて、改めて難しい問題だと実感しました。
しっかりした議論が必要です。
- 会議録 -
○義家委員長 次に、藤野保史君。
○藤野委員 日本共産党の藤野保史です。
今日は大変貴重な御意見をありがとうございます。
相続登記の義務化についてお聞きしたいんですが、この点で、先ほど石田参考人から、意思の伴わない、そういう状態をつくるというのは危険だという御指摘がありました。
今年の二月二十五日には、全国青年司法書士協議会の会長声明も出ておりまして、この中で、この相続登記の義務化について、こういう指摘があります。
いわゆる所有者不明土地の問題は、多数当事者の共有状態を解消するための合意形成の困難性にこそ、その原因がある。相続人全員が関与せずとも可能である法定相続分による所有権移転登記を推進することは、法定相続分による登記を行ったことによるあつれきの発生等により、登記手続に関与しなかった当事者との合意形成をますます困難にする。
こういう指摘がありまして、この点につきまして、まずは、石田参考人以外の三人の御見解を伺いたいと思います。
○山野目参考人 ありがとうございます。
藤野委員がお挙げになった全国青年司法書士協議会は、本日の所有者不明土地問題にかかわらず、子の養育費の問題であるとか様々な課題に取り組んで、精力的に、司法書士の観点から、社会経済の各種の難題についての対策提言をしてくれている団体でございます。
今回、この相続登記の義務化に関して、御指摘の、その会長声明という形で意見をお述べになっているところも拝読させていただきました。
遺産分割が適切に進められるために法律家の支援が必要である、その視点はどうなのだという、その全国青年司法書士協議会の問題意識は誠にごもっともなものであるというふうに感じます。
したがいまして、本日御審議をいただいている法律案は、不動産登記制度の側面から、登記の手続の側面からこれをしてくださいということをお願いするという、その規定をお示ししていただいて、直接にはそれを審議していただいているということになっていますけれども、それだけなのですか、あるいは、その周りで展開すべき政策については何も関心を払わなくてよいのですかというと、話は全く逆でありまして、そんなことはありません。
いわば硬い性質と軟らかい性質の施策ということを申し上げれば、登記の手続をしてくださいという硬い施策を本日の法律案で御審議いただいておりますけれども、広い意味での法律家の支援を差し上げて、国民が納得のいく遺産分割をしてもらう、我が国社会の制度環境を整えていくために、まだやることがあるでしょう、軟らかい施策として、その支援はどうなんですかということについては、引き続き立法府としても関心を抱いていただきたいと望みます。
司法書士の役割もそうです。それから、弁護士も仕事をしてくれると思います。それから、近時やはり注目していかなければいけないのは、法務局行政に対して、いろいろな負荷がかかっている面もあるんですけれども、新しい役割をお願いしてきているという部分があります。
これらの人たちの総力を結集して、よい遺産分割がされる社会に日本をしていくということについて、議員のお尋ねは御関心を払っていただきましたものであって、深く御礼を申し上げます。ありがとうございます。
○今川参考人 お答えします。
我々も、私も、単なる義務化は消極であるというふうに常々申し上げております。何年以内に登記をせよということになりますと、何年以内に遺産分割協議をしなさいということになりまして、意思表示を強制するのは余りよろしくないのではないかと。
そして、それを回避するために、法定相続分による登記、これは、相続人が多数いた場合に、そのうちの一人が法定相続ということで登記をできますが、先生御指摘のとおり、知らない間に自分の名義の住所、氏名が入ってしまうとか、いたずらに登記名義人が増えてしまうということもありますので、それを強制することもなかなかできないので、私たちは、当初から登記手続に代わる簡便な申出制度を入れてはどうかということを提唱してまいりました。
それで、この度、相続人である旨の申出が入ったということに関して、その申出をすることによって義務履行があったとみなすという規律が入ったことを前提としまして、この義務化全体に賛成をしたわけであります。
ただ、相続人による旨の申出さえすればそれでいいんだということではありません。最終的には、遺産分割協議を経て、その結果を踏まえた登記をするというのが、これが本来の在り方でありますので、遺産分割協議を促進していくという面において、司法書士も含めて、弁護士の先生方は当然ですけれども、資格者が相続人をサポートしていく、こういう体制が必要なんだろうなというふうに思っております。
○吉原参考人 ありがとうございます。
先生御指摘のとおり、相続が発生したら、なるべく早期に相続財産の清算が行われるというのが理想の姿であると思います。 今回の改正案の内容は、法定相続分による相続登記をすればそれだけでいいとは決して言っていませんで、その後、遺産分割協議が行われた場合には、それに沿って改めて遺産分割協議に基づく登記をしてくださいねということを盛り込んであります。そして、その際には、手続が簡便になるように、更正登記という扱いで単独申請できますよというふうな配慮がされています。したがいまして、これは段階的に登記情報を拡充していくようなたてつけになっております。
したがいまして、法定相続分だけで止まるというような趣旨では決してないということは申し上げたいと思います。
○藤野委員 石田参考人にお伺いします。
先ほど、そういう意思の伴わない相続というのは危険だというお話もありました。もし何かそれでつけ加えることがあれば教えていただきたいことと、あと、先ほど来出ておりますアメリカのいわゆるランドバンク、これについて、もう少し詳しく教えていただければと思います。
○石田参考人 ありがとうございます。
先ほどの、意思の伴わない所有になってはいけないというのは、先ほど言いましたように、形骸化の心配です。
やはり、死亡の公示と、確定的な承継人による遺産分割協議としての相続登記は分けるべきだということで、後者の方は強制してはいけない、これは先ほど今川会長もおっしゃったとおりでございます。
外国ではどうなのかといいますと、今申しました、そういうたてつけができております。
なぜできるのかというと、遺産分割の中で、やはりどうしても、これは日本の現実でもありますが、法律的にはいわゆる権利というのが発生しているというのはあるんでしょうけれども、相続が発生して、相続人の権利が発生するというのは、法律上それはあるんですけれども、実際に、やはり受け取れない、相続できない、誰も責任が取れないという遺産というのはあると思います。それを放棄するためには、今、相続放棄、全部を放棄するという方法しかないんですが、海外ではどうしているかというと、やはり、不動産に関しては、そういうふうな、簡単に言いますと、嫌々相続されるぐらいであれば、いわゆる市町村、地元の市町村に返してください、そして市町村が活用プランに沿って使わせてもらいますと。その方がよっぽど有効であるということで、お手本になってきたのがアメリカのランドバンクでございます。
アメリカのランドバンクは、レジュメの四ページに詳しく書いておりましたが、アメリカでも、ラストベルトの辺りで相当な空き家問題が発生した時期がございました。このときにどうしたかというと、日本と同じようにいわゆる空き家を積極的に空き家バンクに登録をさせて、市場経済にどんどんどんどん送り込んだ。その結果、人口が増えない状態でそういうことをすると、結局、投機的な買主に行ってしまう、かえって町がスラム化が拡大した、こういう時代が現実にありました。
日本でも今、同じです。そういうふうに空き家バンクで一生懸命空き家を掘り起こしたところで、結局は、京都なんかでは外国人による外国人のための民泊が増えたりとか、そんなことも現実、ありました。
まあ、それはいいとしまして、そこでアメリカはどうしたかというと、逆に市場に出さない、いわゆるマスタープランに沿ってそれを再生しようじゃないかと。実際に空き家なんかは解体費用がかかります。これは日本と同じぐらい、二百万前後、お金がかかってきます。これは全部公費で出しています。何でそんなことができるのかといったときには、やはりそれはいわゆる日本でいう憲法二十九条の補償と同じで、それぐらいは出しましょう、ただし土地は無償ですと。固定資産税というのはそのために取っているんだというふうな意見もありました。
そういうふうに、公費をかけてでも自分たちで積極的に早期に回収して、それを地域のマスタープランに押し込んだ方が、現実的に経済の回復につながった。まず、経済だけではなくて治安、こういったことも回復したということが現実に起こったので、今、アメリカでは非常に広まっていった。フランスでも同じようにまねて、そういう制度を今つくって、できました。
そういうことで、一番大切なのは、遺産分割を促進するためにはやはり受皿が必要なんです。どんなに相続人が要らないと言った土地でも、実は国家としては、要るんです。市町村としては、要らない土地なんかありません。
なぜそれが受け取れないのかといったら、まずプランがないこと、それと、余りにも細分化されてしまって、プランすら、活用すらできない土地が増えてしまった。ということは、集約すればいいんです。集約するために回収すればいい。そのためにやはり受皿というのは必要でございます。
そういう意味では、日本版ランドバンクというものをつくって、積極的に回収できる、受皿がある、このことがあることによって、いろいろな財産管理人も含めて、相続人も安心して遺産分割ができる、意思ある遺産分割が促進できるということにつながっていると思います。
○藤野委員 ありがとうございます。
ちょっと時間がなくなってきたんですが、山野目参考人にお聞きしたいんです。
全国青年司法書士協議会はもう一つ指摘していまして、民法の登記の対抗要件主義との関係で、民法は御承知のとおり百七十七条及び八百九十九条で登記を第三者対抗要件と定めております。つまり、登記を備えるかどうかというのは当事者の意思に委ねられているのが原則でありますが、今回、民法とは違う手続法である不動産登記法において相続による所有権の移転の登記に限って申請義務を課すとなりますと、民法の定める原則とのそごが生じるのではないか、こういう指摘があるんですが、これはどのように考えたらいいんでしょうか。
○山野目参考人 民法の百七十七条と、それから八百九十九条の二の規定でしょうかね。(藤野委員「八百九十九条の二」と呼ぶ)そうですね。
対抗要件として定められている登記、そういう理解で今までしてきたということは、議員御指摘のとおりでございます。 裏返してみたときに、対抗要件としての役割を果たすということしか登記には期待してはいけないということなのかというと、そうではないという側面に、今般提出されている法律案は、不動産登記制度に対する見方を点綴するということを促す要素が含まれているのではないかと感じます。
不動産登記制度というのは今まで何となく民法の附属法令みたいなようなイメージで受け止められてきたかもしれませんけれども、もう少し公的な側面というのがあるのではないでしょうか。民事行政、国民の権利基盤を支えるものとして育てていく、その役割の一つが、振り返ってみたら対抗要件ですねということがあること自体は否定しませんけれども、対抗要件のみですかというと、そうではないんじゃないでしょうか。
私たちが知っているよい例は、自動車の登録制度なんですね。あれは、確かに一面では、誰が所有者であるかということを登録し、そして対抗要件としての機能を果たさせますけれども、同時に、国土交通省が保安基準を満たしていますかということをチェックしましたということを明らかにし、そのことを継続してコントロールするよすがでもあるんですね。自動車というのは、危険なものが町じゅうを走られたら、それは我々にとっては危なくて困りますから、登録制度に、民事の制度としての側面と、誤解を恐れずに言えば、広い意味での警察対応としての側面と両方を持たせているんだというふうに理解しますけれども。
これからの日本の不動産制度は、やはり、そのような民事の対抗要件としての制度としての側面と、もう少し公的な、土地政策の側面からの大事な役割という点にバランスよく光を当てて見ていってほしい。
全国青年司法書士協議会がおっしゃったことはそのとおりでありますけれども、今回の新しい制度がもし法律になるのならば、またそれを踏まえて、全青司においてもいろいろ批判的な検証をしていただければ土地政策にとって有益であるというふうに感ずるものでございます。
○藤野委員 今日は大変ありがとうございました。
終わります。
作成者 : fujinoyasufumi