会社法改正案について参考人質疑
衆院法務委で会社法改正案について参考人質疑を行いました。
3人の参考人のうち2人が「株主提案権が濫用されている事例はごく稀な事例であり、提案権を制限するまで立法事実はない」と指摘。
残る1人も説得的な答弁はできませんでした。
株主提案権の制限に根拠なし。提案権は制限ではなく拡大を!
- 会議録 -
○ 松島委員長 次に、藤野保史さん。
○ 藤野委員 日本共産党の藤野保史です。
参考人の皆さん、きょうは本当にありがとうございます。
まず初めに全員の参考人にお伺いしたいんですが、ちょっと重なるんですけれども、電力会社に対する例えば脱原発の株主提案運動という、運動といいますか、そういう提案権の行使がございます。私は、これは、みずからの主張だけでなく他の株主にも働きかけてコミュニケーションをとって、ひいては会社との信頼関係を醸成していくという点で、まさに会社法が期待する活動だというふうに思っておりますが、今回の法案で、こうした提案も濫用とされるおそれがあると思うか、その場合、何号が問題になってくるのか、これをちょっと教えていただきたいと思います。
○ 神田参考人 ありがとうございます。
今回の内容というか目的の方の条文では、今先生御指摘のような提案が問題になる余地はまずないと思います。
○ 松嶋参考人 私も、神田教授と同じように思っております。
なお、一言申し述べますと、運動型の株主提案権の行使が、それ自体、違法だとか不当なものだとは考えておりません。ということを一言申し述べたいと思います。
○ 前川参考人 純理論的な話とそれから実際の話というのが今混同してなされているような気がしております。純理論的な話でいきますと、それは、二号の、専らどうのというような話になり得ますし、三号にもなり得るんだと思いますが、ただ、実際には現実問題として見たらそのような判断はなされないし、そのような提案をされているわけではないというふうに理解しております。
○ 藤野委員 この問題との関係でなんですけれども、前川参考人にお伺いしたいんですが、仮に株主提案が拒絶された場合に、どういう救済手段があるというふうにお考えでしょうか。
○ 前川参考人 従前、少し話に出ておりますけれども、仮の地位を定める仮処分というのがございまして、事前の手段として見たらそれがあります。事後的には損害賠償請求というのがあるかと思います。あと、株主総会決議取消しの訴えというのもあり得るんでしょうけれども、なかなか、対象が何なのかというような話で、非常に難しい問題が残るというふうに考えています。
○ 藤野委員 これも三人の参考人にお伺いしたいんですけれども、今関西電力の関係で、原発マネーと言われるものが還流したのではないかというケースが起きておりまして、関電だけでなく、日産のカルロス・ゴーン元会長の問題もありますし、東芝の不正経理の問題もありまして、結局これは、経営陣が不正に関与していた、あるいは、監査役がこれを見抜けなかった、あるいは、監査役は、見抜いていたというか知っていたのに、その事実を取締役会には伝えなかったという事案まで実際に起きているわけですね。つまり、会社ぐるみといいますか、コンプライアンス部門ぐるみで不正が行われているという事例がふえている。私は、立法事実というんなら、もうこっちの方が立法事実がふえてきているというふうに思うんですけれども。
本来そういうコンプライアンスのところでフィルターがかかるようなものがかからないで会社に甚大な損害を与えるというケースでありまして、ですから、こういう時代といいますか、こういうことがふえてきている今こそ私は株主の役割が大事になっているんじゃないかと思うのですが、その点についてどのようにお考えでしょうか。
○ 神田参考人 私は先生の御意見に基本的に賛成なんですけれども、企業の不正というんでしょうか、ふえているとすると、まことに遺憾といいますか、私どもはそれをやはり直していかなければいけないと思うんですね。
ただ、そのときは、やはり一つのものに頼るのは必ずしも十分でないので、経験を踏まえながら、株主にも役割はあるともちろん思います、それから、ほかのメカニズムも必要になると思いますので、やはり複合的にそれに対応していく必要があるというふうに一般的には考えています。ただ、株主の役割も重要だというのは、そのとおりだと思います。
○ 松嶋参考人 私の意見を申し述べます。
先生御指摘の問題は、なかなか解決が難しい問題なのですが、私の基本的なスタンスだけ申しますと、基本的には、法化社会と申しますか、裁判というものは一つのツールですので、なるべく裁判の方に、やるやらないは別にして、なるということを前提にして、それを覚悟した上で日常の経営なり総会運営なんかもすべきだと思っております。
そういう意味で、何かのときに裁判に持ち込めるようなためには原告になる方が必要ですので、そういう意味で、そのためのツールと言っては失礼ですけれども、そのために株主にこういう会社の事項について争う手段を与えるというのは、非常に有用なツール、これが全てとは申しませんが、その一つではないかと考えております。
○ 前川参考人 私がやっている株主の権利弁護団という弁護団では、そのような会社ぐるみの社会的な事件のみを対象に弁護団活動をしているわけなんですけれども、その立場から申しますと、やはり会社ぐるみでやっているときには、株主というのが最も重要な、それを追及する人、登場人物ということになるんだというふうに思っております。
もちろん、他の、例えば社外取締役であったりとかというような方に期待するというのもあると思うんですけれども、現実問題として、社外取締役がこのような会社ぐるみの不祥事に対してそれを抑止する効果を発揮したという事例を私は知りません。これはやはり、社外取締役が会社のマネジメントの側から選ばれるというようなことがあるんだというふうに思っておりますけれども。
ですから、やはり株主というのは、最も重要な、会社ぐるみの不正の防止の手段であるというふうに考えております。
○ 藤野委員 先ほど立法事実の御指摘がありまして、続いて前川参考人にお聞きしたいんですが、立法事実がないのになぜ今回こういう法案が出てきたのか、先生はどのようにお考えでしょうか。
○ 前川参考人 先ほど、神田先生のお話でも、立法事実と呼べるものは出てこなかったというふうに理解しています。しかも、七年か八年前ぐらいの事案が一件、それから、先ほど裁判例で話になっている事案が一件、この二件だけが問題となっており、正直に言いますと、なぜこのようなものがなされているかというところについて、これは臆測で申し上げるしかないんですけれども、やはり、一つは、何か以前の話というのが何となくくすぶっていて、ようやく何年もたってから出てきたというふうに考える考え方が一つ。それから、あとは、全く別の意図を有しているのではないかというところがもう一つございます。ただ、これは私の推測ですので、これ以上申し上げることはできません。
以上でございます。
○ 藤野委員 これは三人の方にお聞きしたいと思うんですけれども、株主提案権を制限するというのは、私は、もともとの趣旨である、株主総会の活性化を図るという趣旨でやられたと思うんですけれども、それが逆方向になっていく。
実は、先日の委員会で紹介したんですけれども、一九八一年の国会で、竹内昭夫東大教授がこういう指摘をされているんです。
株主総会に出ていきましたところで旅費をくれるわけでもなし、日当をくれるわけでもない、そして株主が自分の議決権に物を言わせようといたしましてもその力は限られておるということであれば、やはり総会に出ていっていろいろ発言なんかをするよりも、そんな暇があったら自分の仕事をしようということになるのもこれはやむを得ないことか、かように考えるわけでございます。しかし、我が国では、それが今申しましたような必然的な傾向として避けられないよりもはるかに空洞化がいわば進んでいると。
だから、株主総会に行っても旅費も日当も出ないというのは、日本だけでなく世界的にもそうなんですけれども、日本の場合は、やはりそれが当たり前のこと以上に、必然的な傾向として避けられないよりもはるかに空洞化が進んでいる、だから株主提案権などを設けたんだというふうに竹内先生が参考人として一九八一年におっしゃっておられます。
その後に、私、大事だなと思いましたのは、そうやって株主が活性化していく、株主総会が活性化していくことが、我が国における経済社会というものを支えております企業のいわば姿勢を健全にし、国民、投資家大衆との間のコミュニケーションを太くする、国民の側から企業に対する不信の念を拭い去っていく一つの手段ではないか、このように考えまして、株主提案権とか説明義務とか、それから議長の権限も強化いたしました、こういうような御発言をされておりまして、なるほどなというふうに私思ったんです。
企業の健全な発展と、企業に対する国民の不信などを拭っていくそのツールとして株主提案権があるという指摘なんですけれども、私、やはり、企業が健全に発展していく上でもこれは大事な権利ではないかと思うんですが、その点の認識は、お三方はいかがでしょうか。
○ 神田参考人 ありがとうございます。
私も先生と全く同意見でございまして、当時、竹内先生は私の先生で、また竹内先生のもとで助手を務めたんですけれども、昭和五十六年改正前は株主提案権すらなかったんですね、日本には。当時は、それを導入しようということで、大変な議論をして、導入されて非常によかったと思います。
今回、立法事実があるとかないとかいう御議論、おありかと思いますけれども、私は、前川先生がおっしゃる趣旨にはほとんど同じような意見である点が多いんですけれども、立法事実がないと言われますと、ううん、そうだったらこういう提案はしていないので。それは、例えばですけれども、今の先生の御趣旨からいうと、じゃ、ある会社の商号を野菜ホールディングス株式会社という商号に変えましょう、こういう提案をみんなで議論することが株主総会の活性化、あるいは当時の、昭和五十六年改正で得た株主提案権制度の趣旨なんですかという話に結局なると思うんですね。
それから、数の方でいいますと、一人で百個提案、まあ百個でなくてもいいんですけれども、今回の法案との関係でいえば、十五個提案をして、その人が株主総会全体の時間の中の一定程度の時間をとるし、会社も準備しなければいけないというのが会社の費用で行われるというものをどう考えるかということで、会社は拒絶すればいいじゃないですかという御指摘が先ほどもあって、それは今でも拒絶する会社はあります。今でも提案権を受けない会社はありますので、先ほどのように裁判になったりするケースはほかにあるんですけれども。そういうことだと思うんですね。
ですから、提案権の重要性というのは私は先生と全く同じ意見であり、昭和五十六年改正でこの制度が導入され現在も使われているということは、非常に前向きに、そういう意味では評価したいと思っております。
○ 松嶋参考人 私の意見を述べさせていただきます。
私は、どちらかというと、今回、提案権の点に限ってですが、立法事実は乏しいのではないかと思っております。先ほども述べましたとおり、非常に特殊な方であります。
こういうような大量請求というのは、実は株主提案権に限った問題ではありません。例えば、今回のテーマではありませんけれども、自治体等に対する情報公開請求でも、一人で二百件、三百件と出してくる方もおりますし、弁護士会に対する懲戒請求でも大量に出してくる方がおりまして、ただ、だからといって、情報公開について、憲法二十一条を根拠にするものですので、それを濫用だから制約しなきゃという議論はありません。私も自治体の情報公開委員をやっておりますけれども、そういう議論はありません。それと同じではないかと思っております。
それと関連いたしまして、いろいろな方が来るのが株主総会ですから、やはり特殊な人はいるわけでして、そういう特殊な人は特殊な人だとして取り扱って、粛々と対応すればいいのではないかと思います。
その上で、粛々と対応という中で、仲よしクラブではありませんので、後で裁判というものを踏まえた上でのコミュニケーション、ある意味、緊張関係にあるコミュニケーションが実現できるのが株主総会の場ではないかと考えております。
以上です。
○ 前川参考人 神田先生がおっしゃられた野菜ホールディングスの事案とかというのは、あれは明らかな濫用事案だというふうに私も考えております。
ただ、昭和五十六年に株主提案権の制度を導入して四十年近くになろうとしているんですけれども、そのような中で、一件というのか二件というのか、このような株主提案の濫用的な事案が出たからといって、これをやはり規制していくということに本当になるんだろうかということは、ぜひとも皆さんによくよく考えていただきたいなというふうに思っております。
先ほど松嶋先生の方から出た、特殊な人がそういうことをやる、それを、僕は株主提案権というのは会社の民主化みたいなものだというふうに思っているので、民主主義の中ではいろいろな意見というのが出てきます、それに一つ一つ誠実に向き合っていく、濫用的なものを除いてですけれども、向き合っていくというのが実は民主主義の支払うべきコストなのではないかなというふうに思っておりまして。
会社も同じように、株主提案権、中には、もしかしたらその二事例以外にもちょっとどうかなと思うような提案はあるのかもしれません、ただ、それについても、株式会社の民主化というところの点から支払うべきコストだというふうに、本当にごくわずかなものだというふうに思いますので、それをきちんと対応していくというようなことになるのではないかというふうに考えております。
○ 藤野委員 ありがとうございます。
次に、ちょっと、取締役の報酬と会社補償制度についてお聞きしたいと思うんです。
今回、ストックオプションなどの業績連動型報酬の要件がいわば緩和といいますか、広がる、使いやすくなる、会社補償制度というものを創設されるということでありまして、いわば会社の調子がいいときは業績連動で取締役が報酬を得られる。会社が調子が悪くなったといいますか、損害が発生した場合は、今度は会社の補償で助けてもらえるということになるわけで。
ちょっとお聞きしたいのは、取締役を、こうやって、ある意味、報酬面とあるいは損害面でサポートというか優遇することによって会社が発展するんだという合理性というか、その理由というのは何だというふうにお考えなんでしょうか。
○ 神田参考人 御質問、どうもありがとうございます。
一般的にはちょっと難しい御質問かと思います。といいますのは、会社が発展する要素というのは一つでは決してなくて、複合的な原因がある。
ただ、御質問の点についてちょっとコメントさせていただくことをお許しいただきたいんですけれども、業績連動報酬というのは、業績が上がったら得するので、もちろんそうなんですけれども、下がったらやはり損しないと一方向になりますよね。ですから、最近、株式報酬ですとか一円ストックオプションというのがそういうものでして、つまり、株式が今千円、株価が千円であれば、一生懸命働いて業績が上がれば千五百円になりますけれども、業績が悪くなれば五百円になりますので、千円のものが五百円になるというので、両方向に働くインセンティブ報酬というのが最近の考え方です。
他方、会社補償なんですけれども、これは別に、業績が上がってたくさんもらうとか、業績が悪くなったときに返してもらうという性質のものではなくて、通常かかった費用だけですとか、そういう限定されたものを限定された手続の中で、会社に、何というか、自分が立てかえ払いしたと言えばやや表現が悪いかと思うんですけれども、会社が支出するという性質のものであります。
○ 松嶋参考人 神田教授の方からほぼ話されてしまったような感じもするのですが、せっかくストックオプションと会社補償について先生の方から問題提起をいただいたのでコメントをさせていただきたいと思います。
私も、取締役が、役割というのは経営判断、リスクをとることですので、それが会社を発展させることもあるというふうに認識しております。
ただ、ストックオプションの問題とあと会社補償の問題については基本的には反対ではありませんが、ストックオプションの問題、ゼロ円出資の場合については、むしろ労務出資問題について正面から受けとめる時期が来ているのかなというふうにも思っております。
他方、会社補償についても、反対ではありませんが、費用について、独禁法の話が事例として出ましたけれども、課徴金等々は、課徴金と大体リーニエンシーというのはワンセットでついてくるわけで、それについての弁護士報酬、タイムチャージということになりますから相当な額になるので、実際上その後始末というのは大変で、これだけの条文で大丈夫かなという疑問は持っております。
以上でございます。
○ 前川参考人 ストックオプションの点については、それはやる気を持って会社の経営をやっていくというような話で、やる気になるんでしょうけれども、補償契約に関して言うと、この範囲についてきちんと気をつけて議論をしていただきたいなというふうに考えております。
特に、とりわけ防御費用に関しては、悪意、重過失がある場合でもその点については出るということになっておりますので、その点について十分御議論いただきたいというふうに考えております。
以上でございます。
○ 藤野委員 本日は大変ありがとうございました。
質問を終わります。
作成者 : fujinoyasufumi